Angsthase | ナノ
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久々に降り立った駅は相変わらず騒がしかった。
ナツメはぼんやりと構内を見回す。こんなにも、ここは喧しい場所だったか。頼りない足取りで歩きはじると、周りの人々は忙しい時間帯にのんびりと歩く少女を、さも大きな障害物であるかのように半ば睨みながら通りすぎていった。
改札を出ても、見える景色はあの頃と変わりない。ビルにしがみつく色とりどりの看板。乱雑に並ぶ電柱。雑然と動く人混み。ベッドタウンとして郊外に存在する町特有の、ありふれた騒がしい風景だ。駅前だけを切り取ってみれば、他の土地でもだいたい通用するレイアウトでしかない。
外へと足を踏み出した途端、雨が上がったばかりらしい湿気った空気がナツメの顔に当たる。
もう五月なんだ。ナツメはそこで改めて季節を感じた。人々は薄着へと変わりつつあるし、雨だって降る回数は増えている。梅雨入りは数週間もかからないだろう。

「…………」

あの梅雨の日から十三年。はたしてなにが変わって、なにが変わらなかったのか。
知りたくはあるが、このまま目を逸らしつづけてもいたい。
ナツメはなかなか踏ん切りがつかずにしばらく改札の前で立ちすくんでいたが、スーツを着た男性にぶつかって舌打ちをされた。朝の混雑のなかで立ち止まる人間は障害でしかない。
ここから移動せざるをえない状況だと感じたナツメは、パンドラの箱を手にしたような心持ちで深呼吸をひとつし、ついに街のなかへと踏み出していった。




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