Angsthase | ナノ
3


自称、妖怪博士の化原先生いわく、ここの山は妖怪の住まう場所らしい。冗談のように大きい爪を見せられて、まだ中学生になったばかりの女子たちは――ただしナツメを除く――恐怖からわぁわぁと泣き言を発し出した。

「いーやーだぁー!」
「帰ろーよぉこんな山ー!」

しかし妖怪好き、否、『妖怪の主』好きな清継がそれを許すわけがなかった。彼はドヤ顔で腰に手を当て、元気よく声を発する。

「ふふ、何をビビっているんだい君たち? ボクの別荘があるじゃないか! この山の妖怪研究の最前線! セキュリティも当然バツグンだ!」
「妖怪にセキュリティ? 効くのかな……?」

効かないと思います。
じと目で清継を見るリクオの考えは正しい。そもそもセキュリティが効いていたら彼はここに存在しないのだから。陰陽師の作る結界のセキュリティですら、珱姫に逢いに行ったぬらりひょんにとってはないに等しかったのだ。もしもあれが効いていたら、ぬらりひょんは珱姫に出逢えずに、そのまま物語はある意味で終わっていただろう。

「君たちは心配しすぎだよ!」
「ハッハッハッ……まぁ言うても牛鬼なんて伝説じゃから……。あの爪も誰かの作り物かもしれんしのー」
「いや、それは……」
「ほらほら先生もこうおっしゃっているわけだしね! 温泉と食事が君たちを待っているよ?」
「それはー……うう」

山での温泉と食事。一般中学生な巻たちの表情に迷いが浮かぶ。いままでの経験から、清継の家が金持ちであることはよくわかっている。その少年の別荘が、彼女たちにとって魅力的でないわけがなかった。
さらにとどめを刺すように、清継は腕を振ってゆらを指す。

「それにほら、襲われたとしてもこっちには少女陰陽師の花開院ゆらくんがいるわけだ!」

とつぜん注目を浴びたゆらは、手に持つ式紙入れ兼、レシート入れの財布を見て暗い表情になった。

「(レシートを分けとかんと……ああ、割引券の期限が……)」

中学生の一人暮らしはやはり大変なのだろう。同情めいた視線をゆらは受けつつ、レシートと式紙を選別し始めた。
そして、清継は思い出したように化原に声をかける。

「先生も一緒にどうですか?」
「いや、ワシはもう山を下りるよ。邪魔じゃろう?」

疑問形でありながらも有無を言わせない異様な雰囲気に、清継は少したじろいだ。

「そ、そうですか? 話をもっと聞きたかったのに――」
「いやいやワシの役目は終わりだよ。……そぉだ。夜は危ないから、絶対に出ないほうがいい」
「…………」

ねっとりとした声と仕種。まさかこれが操られている人間だとは誰も思わないだろう。ナツメは化原の頭上にいるであろう妖怪の存在を考えた。耳を澄ましてもこれを操る者の声は聴こえない。そもそも気配すら感じられなかった。さすがは若頭補佐だ。抜けているようでしっかりしている。戦闘になったとして、ナツメの勝ち目はどこにもないだろう。




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