Galgenhumor | ナノ

サイを投げる


最近の私はおかしい。
漫画で見た、鯉伴さんが殺害されるときの映像が頭の中で浮かんでは消えていく。
私は自分の布団を頭まで被せて蹲った。

最初、私はここから出ていくはずだった。
この物語には必要のない存在であるし、他人を信じられない私にとっては負荷でしかない場所だと思っていたから。いつか自分がストレスで疲れはてる前に去ろうと決めていた。だというのに、鯉伴さんや若菜さん、他にも組のみんなに優しくされて、いつの間にかそれに慣れて、そんな考えは消えてしまった。

次に、それでもこの人たちは嫌いだった。
優しくされて、居場所を作ってもらったくらいでは好きにはならないと思っていた。愛情なんていう不確定なものはいらないと考えていた。それなのに、私には想像できないくらいの無償の愛があって、注がれて、いつの間にか幸せだと言えるようになってしまった。

最後に、運命には無関心だった。
べつに、あの人が死のうが、この人たちが苦しもうが、私には一枚の膜を隔てた先にある世界の話だったし、それこそがこの物語の運命なのだから仕方ないと思っていた。
でも――いまの私は、その運命を受け入れることに戸惑っている。

どうしてなのだろう。

あの人の死期が近いから?
この生活が楽しかったから?
無償の愛情をくれたことが――泣きたいくらいに嬉しかったから?

この世界に生まれたときから死ぬと知っていたくせに、いざそれが近くなると受け入れるのが怖いだなんて。私はとんだ甘ちゃんだ。
でも、幼い頃からまったく懐かなかった私に対して、いつも笑顔で愛してくれた鯉伴さん。初めて信じられると思った、若菜さんやリクオ、奴良組のみんな。
そんな大切な存在になった人たちを、私は殺したくは、悲しませたくは――ない。
それだけは胸を張ってハッキリと言えるのだ。
……本当に、私は笑えるくらいに弱くなった。それとも自覚がなかっただけで、元々私は弱かったのかもしれない。


最近の私はおかしい。
だから、賭けに出ようと思う。
これがどっちに転んだって、私が後悔しないような賭けに。




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