∴ 詩とか中二乙wwみたいな話
切り捨てて、切り捨てて、
結局、残ったものはなにもないというのに
空気だけを、痩せた腕でかき集め
虚栄の中で立ち尽くす
「これでいいんだ」
と
呟く声は
誰にも届かない
一抹の罪悪感すら
溶けて消える空虚な人
*
自分を最低だと自覚していたとしても
それが何の解決となるのだろうか?
わかったところで変わらない
だって、最低だから
*
真実だなんだと偉ぶる存在
割り切れない存在
諦観する存在
そのどれもが、私
なにも知らなければ、幸せだったというのに
*
「ねえ。これ、なに?」
「えっ? ……ああ、詩だよ」
「シ? シって、あの、ポエムの?」
「そうそう。恥ずかしい話だけどさ。ま、若気の至りってことで、見逃してくれよ」
彼は照れ臭そうに笑う。
まじまじと、私は紙に視線を巡らせる。小さな紙の上に、隠れるように書かれた文字たちは、大人しい彼を無理やりにでも彷彿させた。
しかし、と私は軽い気持ちで彼に訊く。
「こんなにドキッとさせるような内容を書けるってことは、少なからず、あなたもこんなことを考えていたからなんでしょうね」
「…………まあ、そうだね」
私の予想に反して、彼は暗い面持ちで反応した。予定だったら、彼から「そうなんだよねー、中二病とか笑っちゃうよねー」と言われるはずだったのだ。少なくとも、揶揄されたと軽く受け止めてほしかったというのに。
「ねぇ? 大丈夫?」
「……あ、いや。ごめん。……あまりにも君のセリフが的確すぎてね、一瞬、動揺しちゃった」
「どういうこと? それ」
「うーん、どう言うべきなのかな……」
彼は心底困ったという風に、左手を口元に当てて悩んでいた。
普段の彼を知る私は、それが長考をする合図だと理解しているため、彼から視線を外して、もう一度、手にある紙に目を落とした。
切り捨てて。空虚。何も残らない。……ずいぶんと寂しく、また幼稚な詩である。あまり詩をよく知らない私でも、それだけはよく分かった。もちろん、それを制作者に伝える気はさらさらないけれども。
彼はついに、ぽつりと声を漏らした。
「ああ、そうだ……」
「なにが?」
紙から目を離す。目の前の彼は、恥ずかしげに説明を始めてくれた。
「それを書いたときの僕はね、とてつもない孤独感に悩まされていたんだよ。両親の不仲やら、虐められた経験が普通の内容じゃなかったことに気づいたときの恐怖。両親の意見が食い違って、矛盾しているにも関わらず、どちらかを味方しなくてはならない疲労。強まった人間不信に、始まった恋愛嫌い。詳しくは母親に「精神病になった原因はお前だ」と責められたり、親友に裏切られたり。……踏んだり蹴ったりで親も友人も信じられなくなってしまった状況下で、ついには同性も異性も苦手になってさ。まったく、どうしたもんだかと悩んだよ。だから、その詩を書いたんだ。ちなみに、一番上の作品の題名は『友人』ね」
「…………」
なるほど、それでは詩の一つや二つは嗜みたくなるものだ。
へらへらと笑う彼は今でもまだ、己に近づく者を全て選別して、拒絶しているのだろうか。私はふと、そう思った。もしそうだとすれば、私は確実に切り捨てられているゴミだろう。
「……なんというか、あなたって意外と弱い人なのね」
「ごめん」
しみじみと呟いた言葉は、彼の曖昧な笑顔に混ざって消えた。
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