∴ 獅郎さんと会話

寝ている間だけ祓魔師トリップ、しかも教会内にしかいられない。幽霊みたいな。
獅郎さんには見える。燐や雪男はまちまち。他の方々には滅多に見えない。
どうやら眠りの深さに関係があるらしい。



目を開けたらいつものあの場所にいた。テスト中だったというのに、どうやらわたしは眠ってしまったようだ。
「また来たのか」
獅郎さんが銃を手入れしながら、こちらを見ずにそう言った。
「みたいですね」
わたしは頷いた。ここと、わたしの住む世界は流れる時間が違うのか、いつも時間帯がズレていた。一番近かったときでも、約三時間の差があったくらいだ。いま、窓から確認した世界は真っ暗だった。時計の針から察するに、どうやら真夜中らしい。ゆらゆらと揺れる蝋燭の明かりだけを頼りに銃を触る獅郎さんの姿は、影の濃さと相まって、なかなか様になっていた。
手持ち無沙汰なわたしは、そこらにあった椅子に腰掛けた。この世界にいる間は空腹も疲労も感じないけれども、それでも体裁のようなものは立てておきたかった。目が覚めるまでの数分、または数時間。わたしはいつもぼんやりと過ごしていた。
「今回は就寝か?」獅郎さんは銃をガシャリと動かした。
銃の周りを這う手は止まらない。調整をしているようだ。
「いえ、普通のうたた寝です。テスト中なのに寝てしまったみたいで」
「そりゃ、やっちまったな」呆れ気味の声だ。
「ですよね」
とても笑えない話だ。なにせわたしは、少なくとも数分間は起きることができないのだから。
寝ることが、ここの世界に行ける、唯一のわたしの条件だった。そしてそれは見境がなかった。つまり、うたた寝だろうが爆睡だろうが、どんなに夢を見たくても、見たくないほど眠りたくても、わたしが寝るという条件さえ満たしてしまえば、いともたやすく、この世界に移動してしまうのだ。
しかしながら幸か不幸か、寝りさえ醒めれば、わたしはまた元の世界で、周りからすれば何事もなかったかのように生きていけた。
蝋燭の蝋がゆっくりと垂れる。何秒で落ちきるのかを頭の中で数えながら、わたしは獅郎さんに話し掛けた。
「そういえば、どうです?」
「あー? 何がだ?」
省きすぎた。反省。
「双子くんたちです。元気にしてますか?」
「おう。あいつらなら元気だよ。燐はやんちゃすぎて困るくらいだけどな」獅郎さんは振り返らずに、また銃をガシャリと鳴らした。
双子たちは確か、小学六年生くらいだったはずだ。ここ最近はずっと夜にやって来るため、あの無邪気な顔が恋しかった。
「あの年頃なら、やんちゃなくらいがちょうどいいと思いますよ。まだ子供ですし、遊ぶことが一番です」
「そうだな」
銃を触る獅郎さんの手が、一瞬、止まった。わたしはそれを見なかったふりをして、蝋燭を眺めた。わたしに観察されている蝋燭は視線を気にする様子はなく、しかし身をよじるように炎を揺らしていた。
この世界では、わたしは部外者だ。ここで生まれ育っていないのだから、文句を言える義理はないし、ましてや家庭の事情に首を突っ込む気はさらさらない。獅郎さんとわたしはただの話し相手。双子兄弟は時折、出会える癒しで十分だ。

気がつけば、わたしは元の世界で目覚めていた。テスト用紙は半分しか埋まっていない。問題に手をつけようとしたところで、試験終了を知らせるチャイムが鳴った。
結局、何秒で蝋が落ちたかは忘れてしまった。

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微糖夢こいこい!

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