∴ 財前と吸血鬼の女の子の話

「私はこう見えても一応、吸血鬼なんですから」

あなたの血をください。
目の前の少女は、ひどくぞんざいな態度で、片手をこちらに差し出しながら立っていた。敬語を使っているわりには随分と偉そうだ。さらに少女曰く、この人畜無害そうな外見小学生女子は吸血鬼らしい。これは明らかに早期で邪気眼に目覚めた子供にしか思えない、が、何故かこの少女が人外だということに納得している自分もいるのだ。まったくもって訳がわからない。

「……はいはい、お遊びは別の人としいや」

とりあえず、怠そうに手をしっしっと振る仕種をしながらそう言えば、少女はむっと不機嫌そうな顔をした。

「なんですか、せっかく人が下手に出てやってるのに偉そうに。生意気です」
「いきなり血ぃ寄越せなんて言うとるやつに下手に出る義理なんかないわ。ちゅうか、こんな知らん他人のガキになんで優しくせんといかんのや」
「はぁ? 私は少なくともお前よりかは年上ですよ! 成長速度が遅いだけで、本当ならぴっちぴちの素敵な女性なんですからね!」

どうやら本当に邪気眼を発症しているようだ。しかも、胸に手を当てて自慢げに言われても残念さが増すだけだった。

「へー、そうなん」
「なんでリアクションがそんなに薄いんですか!」

むっかつく! などと、やいやい叫ぶ子供を置いて、俺は止めていた足を動かして、帰り道を歩きだした。どんなにうるさくても、さすがにずっと着いてくることはないだろう。楽観的とも言える考えだが、子供に付き合うのは疲れるから苦手なのだ。逃げたほうがまだましだ。

「……ふーん、私を無視する気なんですね。ならばその勝負、受けて立ちましょう! 吸血鬼に血を狙われることは光栄なことなんですから、喜んでくださいよ!」
「はいはい、せいぜい頑張りや」

振り返ると、少女は俺の後ろを追い掛けることはなく、立ち止まってこちらを見つめているだけだった。にやりと微笑む姿に、何故かゾクリと寒気が走る。

「――その余裕、いつまで続くのか楽しみですよ」



あれから少女は一度も俺の前に現れなかった。そりゃそうだ。あんな子供がずっと俺をストーカーするわけがないだろう。第一、されたっていい迷惑だ。……どうせあの悪寒は気のせいだったに違いない。
勉強用に使われない勉強机に向かいながら、俺はクルリと椅子を回転させた。

「気のせいじゃないですよー、光ちゃん」
「――なっ、」

いつの間に侵入したのか、件の少女が俺の部屋の、ベッドの縁に座っていた。しかもありえないことに土足である。

「はぁい、呼ばれて飛び出て吸血鬼ちゃんです」
「……呼んだ覚えはないんやけど」
「遠慮はいりませんよ。私はちゃんとわかってますから。それは愛の裏返しですよね?」
「…………はぁ」

全くわかってなかった。
とりあえず靴を脱がすように促して、俺と少女は向き合った。向き合う、と言うのにはやや温かさに欠けてるが、こんな少女に優しくしてやる必要は全然ない。
机の前にある椅子に座る俺と、ベッドの上に座る少女は妙な空気で見つめ合っていた。俺はこいつに対していい感情は持ち合わせていないし、この少女は俺に対して敵対意識なのか好意なのかはよくわからないが、とにかく俺とは異なる感情を向けていた。

「……なぁ、なんでお前、俺の部屋におるんや」
「窓から侵入しちゃいました」

少女はてへっといい効果音が付きそうな顔で笑う。

「はぁ?」

窓から、と言ってもここは2階だ。ベランダがないこの部屋に侵入するのは、俺だってかなり困難だ。それを、この小学生中学年くらいにしか見えない少女がやり遂げたと豪語したのだ。
どう考えたってそんなものは、

「……ありえへん」
「ふふふー。世の中には光ちゃんには到底理解できないようなこともあるんですよ」

少女はそう言いながら、こちらに手の平を向けた。

「だから、私に血をください!」
「さっきの話とまったく関係ないやん」

やっぱりこの少女はただの邪気眼を発動した子供だ。きっとこの部屋の侵入だって、言い分とは違い、玄関からこっそり入ってきたのだろう。
……そう言えば、少女はいつ俺の家を知ったのだろうか。ストーカーされた覚えなんてまったくないというのに。


―――――
というわけで(どういうわけで)、テンションがおかしな話でした。
とりあえず吸血鬼って素敵ですよね! って言いたいんです。あと敬語生意気も素敵です。……ただこの話はちょっと女の子を生意気にさせすぎました。いやまぁ好きですよこういうのも。
何故財前くんにしたのかと言えば、……理由はありません! 仁王以外、立海以外にしようと思ったらこうなったんです。あれ、結局どういうことなの……(現在38,5度)。
関西弁って文章で書こうとすると難しいですよね。伸ばすべきなのか小文字にするべきなのか悩むところがあったりなかったりしました。財前くんの口調も覚えてないので大変でした。「〜っすわ」が財前くんの口調だった気がするんですけど、あれって年下相手には使わないですよね……? それにしても、タメ口の財前くんって一体何なんだ……。

連載させるならもっと大人しめの敬語口調の子を書きたいです。でもロリは譲らないかもしれません。ロリコン財前くん逮捕っ!

prev top next
×
「#年下攻め」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -