01

灰色の世界の中、それは鮮やかに色彩を放っていた。


「僕と契約して、魔法少女になってよ!」

目の前の白い生き物が可愛いらしい声で言う。アニメでよく見かけるマスコットキャラのような外見をした生物。まるでルビーのような、深紅の丸い瞳が真っ直ぐにこちらを見つめてくる。仁王が無言で見つめ返せば、フワフワとした尻尾が右へ左へとメトロノームのようにゆっくり往復した。

「魔法少女になったら、――を救えるんか?」

顔を上げれば、視界には廃墟のみがどこまでも広がっていた。仁王がよく知る建造物は全て崩れ落ち、見慣れた風景は跡形もなく消え去っていた。どこからともなく吹きつける風が頬を叩き、髪を激しく揺らす。それとともに、焦げるような匂いが鼻を刺激した。どこかで火事でも発生しているのだろうか、と仁王は脳内で小さく呟いた。
白い生物は毛を一本たりとも風に揺らされず、仁王に視線を注ぎ続ける。

「ああ、キミの力は計り知れないほどに強力だから、可能性は十分にあるよ。キミが、雅花だけが――を助けられるんだ」

ちょこん、と床に座る姿は可愛いの一言に尽きる。仁王はそれを一瞥し、空に浮かぶ物体を静かに視線を向けた。先程から、多方面に火を噴き、自分のよく知る街を破壊し続けているそれ。まるで時計の歯車と人間を混ぜたような形をして、ゆったりと空に君臨していた。周りの物はその物体を崇めるが如く浮遊して、ふわりふわりと空中を漂っている。絶望を辺りに撒き散らし、恐ろしくも美しいそれは、まさに覇者と言うに足りうる存在だった。
そして、仁王が目を凝らせば、その物体と戦っている人間が僅かながらも目視できた。誰、なんていうのは愚問だ。仁王にとってそれは大切な友人であり、自分の恩人なのだから。どんなに冷たい態度をとっていても、彼女は仁王の友人なのだから。
街が破壊され続けているのは、その友人が攻撃を避けるからだ。つまり、街が壊れている限りは友人の安否は確認できる。しかし、それだっていつ終わってもおかしくない状況なのだ。今、この瞬間にも、確かに友人は命の危機に晒されているのだから。
ビルがまるまる一つ投げられ、別のビルに衝突した。窓ガラスが割れて、光を反射しながら飛び散る。

仁王は何かを決意するように手の平をぐ、と握りしめた。そして白い生物に顔を向け、真剣な表情をして、口を開く。
生物の瞳が、血のような色が仁王の視界を占める。

「―――ああ、私は魔法少女に」

そして、世界が消えた。

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