45-1

仁王雅治という存在は、テニス部にとって二つの面で大きなものだった。彼は虐めという非日常を持ち込んできた当事者でありながらも、同時にテニス部のレギュラーという日常に深く関わっていた。そこまで付き合いが長かったわけではないが、共に全国一を目指して努力をしたために、浅い関係だったとは言い難い。少なからず彼の性格は適当な面もあったが、ことテニスにかけては真面目で、だからこそレギュラーにまで上り詰め得ることができたのだ。
思惟的な評価はせず、ただ、結果のみを告げるならば、仁王雅治は自殺をしただけだ。
もちろん、そこにはさまざまな悩みがあり、道程があり、決断があるのだろう。それでも、結果だけで言えば彼の行動は実に端的だ。他人からすれば、興味も大して抱かれないまでにあっけなく、そしてありきたりな話。

ただし、これは傍から見ればの話だ。

これに関わった立海大附属中テニス部レギュラーにとっては、他人からは到底知るよしもない深い関係、事情、想い、その他諸々が交錯し合い、それからの人生を変えられてゆく始まりだった。

仁王雅治がいなかった空白の三年間。
変化して、固執しつづけた黒い三年間。

「――ねぇ、赤也」

これは、彼らが無知であるということの恐ろしさと、己の行動の遅さに悔やむようになった、あるいは、一人の死によって変質してゆく少年たちの始まりの話である。

prev top next

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -