08

明後日と聞いた筈だったのに、なぜか翌日にルキアの友人はやって来た。

「おーっすルキア。久しぶりだな」
「い、一護!? 何故いるのだ! 明後日の予定だっただろう?」

突然の訪問にルキアは驚いた様子を見せた。
よかった、俺の聞き間違いでは無かったらしい、と仁王は胸を撫でおろした。

「いや、山本のじーさんにも近況の報告を兼ねて来たからな、早めに済んじまったし暇だったからよ」
「ならば連絡をすれば良かっただろう? 全く……」
「まーいいじゃねーかよ。一日や二日くらい」
「よくないぞ! 貴様は何故こういうときに限って適当になるのだ!」

予想通りなかなか仲がいいようじゃな、と仁王は二人の会話を背に書類を整理しながら思う。なぜ部外者である仁王が書類仕事をしているのかといえば、彼がそうしたいと願い出たからだ。わざわざ隊舎に住まわせてもらい、世話になっている代わりに、時々、こうして隊の仕事を手伝う。まれに十一番隊の書類も混ざるのには些か疑問があるのだが。

「そいや、えーと……そいつは?」
「おぉそうだ! 雅治を一護に紹介しようと思っておったのだ。雅治、こやつが私の友人の――」
「黒崎一護だ。よろしくな」
「……で。一護、こっちが――」
「仁王雅治じゃ。よろしくぜよ」
「……なのだ。って両方私の話を遮るな!」
「プリッ」

ルキアに紹介された黒崎一護は、オレンジ色の髪以外は普通の学生だった。眉を寄せているが、恐らく手塚のように癖になっているのだろう。
仁王の名前を聞いた瞬間に、黒崎は何かを思い出したような顔をした。

「あ、もしかして“あの”仁王雅治!?」
「一護、“あの”って雅治に何かあるのか?」

ルキアはきょとんと首を傾げる。
あの、とはもしかしなくてもあの事なのだろう。
始まったとある悪夢。潰えたとある命の話。

「いや、これ言ってもいいのか?」
「……もう、よかよ」

ずっと隠してはいられないと、仁王は薄々感じていた。そろそろここらが潮時なのかもしれない。
自分の顔を伺いながら尋ねた黒崎に、仁王は溜め息混じりに答えた。黒崎は見た目とは違って、やはり、かなり優しい性格であった。
黒崎はルキアに説明すべく、ぽつりぽつりと話し始めた。

「……仁王雅治って言えば、雑誌に載るくらい有名な中学テニスの強豪校、立海大附属中学校のテニス部のレギュラーなんだ。だから俺も知ってんだけどさ。特に立海は全国大会に出場して二年連続優勝しているけど、その中でも仁王はかなりの実力者だったんだ。……つうかルキアはテニスって知ってんのか?」
「す、凄いではないか雅治! 私は霊術院で現世の運動競技は一通り習ったから、テニスは知っておるぞ!」
「ありがとさん」
「で、続きなんだが、二ヶ月くらい前にその立海である事件が起きたんだ。朝一の新聞で、確か見出しは――」
「立海大附属中学校の仁王雅治君が屋上から飛び降り自殺! ……とかじゃろ?」
「な……っ!?」

黒崎と言葉を被せるように、皮肉げな口調で仁王は言った。
ルキアが驚いた表情で仁王の方に顔を向ける。余程のことだったのか、その顔は若干蒼白になっていた。

「それ、たぶん一言一句違わなかったと思うぜ。んでその理由は不明。もっとも、裏じゃあ虐めがあったとかいう噂があるみたいだけどな。最近はやっと下火になってきたけど、メディアにも取り上げられて結構な騒ぎになったんだぜ」
「……雅治、そうなのか?」

ルキアは仁王の顔をじっと見つめていた。
仁王の瞳はどこか光を失っているように何も映していなかった。

「あぁ、そうじゃ。……そっから先は俺が話すぜよ。詳細もな」

目を閉じれば、すぐに浮かぶかつての仲間たち。忘れられないあの凍った記憶。きっと、これは一生忘れられない物なのだろう。
唄うように、懐かしむように、仁王は口を開き、語り始めた。

「あれはそう、いつも通りのある日のことじゃった―――」


一人の小さな物語

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