59-2

※少し苛烈なシーンがあります。


渡環の目前で、仁王の姿は霞のように揺らぎ、かき消えてしまった。足に感じたのはひやりと冷たい空気だけである。
レギュラーらも唖然として見守るなか、ルキアだけは平然とした態度でただ佇んでいた。
一体どこへ行ってしまったのか。渡環は慌てて視線を辺りに巡らせる――が、

「ぽかんとしちょってええんか」
「っ!?」

一閃。
肉を断つ音が、彼女の身体を通り抜けた。

「――っ!」

なにが起こったのかまるでわからない。
渡環の顔にはありありとそう書かれていた。
しかし視線を下に向ければ――目を見開き、驚愕の色に顔を染める結果となる。
彼女の身体は、両膝から下が失われていた。
否、正確には切断されていた。
身体を支える下肢を失えば、あとは地面に墜ちるだけだ。渡環は虚しくも後ろ向きに倒れ、全身を砂まみれにさせた。渡環のものだった脚は、その傍で人形の部品のように打ち捨てられている。

「あ……、あぁ……っ」

吐息に近い声が渡環の口から漏れる。震える手つきで傷口に触れているが、そこからはただ血が滴り落ち続けるのみであった。
仁王は彼女に近寄り、つまらなそうに見下ろす。下げられた斬魄刀はつややかに光を反射していた。

「呆気ないのう」
「お前……なにを……!?」
「ん、ネタばらしが欲しいんか?」

仁王は嘲笑うように口元を歪める
同時に、彼の左手に握られていた刀がゆらりと揺らめき――始解の姿となった。

「この通りじゃ」
「見た目を、欺いていたのね……」
「まぁの。氷の霧と反射の錯覚じゃき。まったくわからんかったじゃろ?」

悪戯が成功したような無邪気な子供のきらめきが瞳に走る。しかし仁王の纏う空気がそれを温かいふうには見せなかった。
例えるならば、危険な玩具を手にしたような、残忍な行為を喜々として実行するような、無邪気な残酷さがそこにはあった。
渡環はそれを近距離で目にし、改めて顔を青ざめさせた。
だが現実から逃避するかのように、震える唇から零れ落ちるのは極めてありふれた疑問だった。

「氷雪系のくせに、ずいぶんと騙すことが得意、みたいだけど……?」

渡環が疑問に思うのも当然だ。通常ならば、氷雪系は物理攻撃に長けた力なのである。ルキアにしかり、日番谷にしかり、一撃必殺を目的にした技が多くある。
そのなかで、仁王はこの力を騙すために用いた。誰もが氷雪系を単純な攻撃をする斬魄刀だと考えるなか、それはどれほど稀少なことなのだろうか。
仁王の手の中で斬魄刀が光の反射を受け、きらりと瞬く。朝日はとうの昔に昇っていた。

「モノは使いようってヤツじゃな。暖かい太陽かて、常に敵なわけじゃない。凍らせるばかりが技じゃないきに」
「……、そう」

渡環は身体の力を抜いた。諦めたふうに頭を下げ、地面を見つめる。
彼女にはもはや抵抗するという意志はないようだった。両脚はなく、髪や制服を乱れさせて座り込む姿は、かつての美しさを知る者からするとよほど惨めなものに思えた。

「お前の魂魄がどうなるかは分からんが、せいぜい尸魂界に行けることを願っとくんじゃな」

もはや渡環の命は絶えることが確信されていた。
それでもなお、彼女は気丈なまま座り込み続けていた。

「ご生憎さま。わたしは幸せになんてなれないわ」

それは虚と渡環、どちらの台詞だったのだろうか。
吐き捨てるように言い、仁王を見上げて弱々しく口元を吊り上げる。くすみきった姿のなか、彼女の目だけは挑戦的な光を宿して輝いていた。
全ての視線が注がれるなか、止めを刺すべく仁王は斬魄刀を振りかざし、そして――。


事の結末。これでおしまい?

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