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――これをあいつらに言ったら、俺たちのように傷つくだろう。なら、あいつらのためにも俺たちだけで背負っていくべきだ。
一年が経ったのか経っていないのか。時間感覚を失い、曖昧に日々を過ごしていたある日、久々に切原の目の前に現れた幸村は、真っ直ぐな視線をこちらに向けながらそう言った。
切原はそれから逃げるように俯いた。素直に喜ぶことはできなかった。
「……はい」
変わった仲間のことを知らず、新たな変化を遂げた幸村は、俯く切原の頭を撫でた。
「俺たちは仲間なんだから、絶対に裏切らないよね」
「………はい」
絶対なんてないんですよ。その言葉を飲み込んで、切原は頭を撫でられ続けた。仁王センパイだって、死なないと思っていたら死んだんだ。切原の脳裏には墜ちていく仁王の姿が幾度も再生される。その映像は、恐ろしいのか、悲しいのか、わからない。
しばらくもしないうちに、俯く切原の顔から水がパタパタと地面に滴り落ちた。
それを見ながら微笑む幸村の瞳は、切原を透過して、どこかを眺めているかのように遠かった。
視界に映る死者の魂。
救いようのない仲間たち。
どこまでも変わりゆくかつての先輩。
狂っているような世界で、しかし切原は罰を受けているという幸せを見いだそうとしていた。
他人からすれば異常。
故に、彼らを救うことは絶対的にありえなかった。
仁王とそれにまつわる話題は、殆どの人間が忘れかけていた。
かつての話――霧の命綱
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