06

仁王が十三番隊の世話になりはじめてから二ヶ月。ようやく尸魂界での暮らしにも慣れ、仁王は自分のペースで日々を過ごしていた。
最初こそは、虐めによる人間不信に陥っていた仁王だったが、十三番隊の家庭的な優しさに徐々に解されて、最近では、以前のように軽い悪戯をしたり、よく笑ったりと、年相応の行動をするようになった。

霊圧のコントロールを目的に、隊に世話になっていた仁王だが、他にも、死神としての修業を主に席官からつけてもらっていた。仁王自身も、世話になった浮竹に、死神として恩を返したいという思いがあったため、斬拳走鬼の全てを真面目に学んでいた。
そんな努力もあり、更に高い霊圧以外にもテニスで鍛えた動態視力のお陰で、たった二ヶ月の修業で白打と鬼道はもう既に高い域にまで仁王は達していた。



朝の日課である白打の練習を終えて、俺は自室の縁側に座って涼んでいた。
尸魂界の季節はどうやら現世とは違うらしく、ようやく椛が赤く染まり始めている。秋と言えば、部活の引退だったか。まだ何も起きてない楽しい日々だった。みんなで笑っていた。過去とは区切りを付けたつもりでも、ふとした時にこうして思い出してしまう。
風に煽られてふわりと部屋に入ってきた椛をぼんやりと目で追えば、それはとある物の前で静かに落ちた。

「…………」

二ヶ月前、十三番隊に入り、修業を始めてからすぐに浮竹さんに貰った刀、浅打。
幾度となくこれと一緒に虚の討伐をしてきた。稽古もしたし、実力もそれなりについたはずだ。
それでも、いまだにこれが怖かった。
人の命を奪うモノ。傷つけるモノ。虚を昇華し、魂魄を尸魂界に送るためのものだと頭で分かっていても、身体が震えた。
この斬魄刀が悪いわけではないのに。
どこか申し訳ない気持ちがいつも心のなかにしこりとしてあった。

「雅治!」

不意にどたどたと足音がしたかと思うと、自室の襖がピシャンと勢いよく開けられた。
こんなことをするのは一人だけだ。

「なんじゃ、ルキア」

後ろを向くと、やはりそこにはルキアが立っていた。
ルキアこと朽木ルキアは、この十三番隊の隊員であり、俺が十三番隊に入った頃から何かと一緒に居てくれる友人だ。
彼女は、引きこもりがちだった俺を外に連れ出してくれたり、稽古をつけてくれたりと同情以外のものを持って俺に接してくれた。今こうして立ち直れているのには、ルキアの存在が大きく関わっているのだろう。

「なんだ、相変わらずテンションが低いな雅治は! 見ろ!」

ルキアがハイテンション過ぎるんじゃ。
なんて思ったけれども、口には出さずに、俺は向けられたチラシに大人しく目を通した。

「……高級白玉ぜんざい、限定百名様無料?」
「そうだ! 私の行きつけの甘味処でな、これがまた凄く美味いのだ。雅治もついて来い!」
「ちょ、いきなり引っ張るんじゃなかっ」

俺がチラシを読むなり、ルキアはぐいっと俺の着物を引っ張った。限定なら確かに急ぐべきじゃが、いくら何でも焦り過ぎだろうに。

「無料なのだぞ。こんなチャンスはまたと無いだろう?」

きらきらと目を輝かせているルキアを見たら、もう何も言う気が無くなった。噂によると貴族の養子らしいが、感性がなんというか、とても庶民的である。

結局俺はルキアを背中に乗せて、わざわざ瞬歩で甘味処まで行った。しかし、俺の上に乗りたがる意味がわからない。
その理由を聞いたところ、ルキア曰く「雅治の瞬歩は早いからな、有効利用しない手は無いだろう?」と答えられた。それを聞いたとき、実はそのために誘われたのではないかという予想が頭を過ぎったのは気のせいではないだろう。

「うむ、やはり早かったな」
「協力した俺に礼を言いんしゃい」

満足げに頷くルキアの頭を、ぱしんと軽くはたいた。


ルキア寄りではありません

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