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立海大附属高校テニス部の評判は良くもなく、悪くもなかった。
部活成績だけを見れば、誰もが羨み、憧れるもので。部員たちだけを見れば、誰も進んで近寄りたいとは思えなかった。
レギュラーはその部活の看板である。その看板がほとんど全員異様な雰囲気を持っていたら――しかも規格外に化け物じみた強さだったら――畏怖はすれど、親しみの感情はなかなか生まれないものである。
しかし、レギュラーたちはそれを自覚しているのかいないのか、異質なりに優しく、または厳しく、並以上の練習を課してきてくれた。それになんとか付いていくことができれば、全国大会への出場はたやすく成すことができるのだから、苦労に見合う分以上の儲けはかなりあるのだ。
だから結局、立海のテニス部の評判は良くもなく悪くもなく、そこそこに人気な部活だった。

「へぇー……そうなんだ」
「なんだよ、その反応は。仮にもチームメイトで先輩だったんなら、もっとリアクションしてもいいだろ」
「へいへい、わーったよ。わぁーびっくりしたぜー」
「はぁ……。冷たいなぁ、切原は」

クラスメイトと区切りのいいところになるまでの間、たわいもない会話を交わす。
チャイムが鳴ってもまだ騒がしい教室内で、冷たい机の上に切原は片頬を押し付けた。

「……“仮”にもなんて、そんなもんじゃねぇんだけどな」

高等部のテニス部の噂は、中学三年生である切原の耳にまでよく届く。その内容の大抵は良し悪しの判別が難しいものだった。
あるときは素晴らしく、あるときは最悪で。風見鶏のようにクルクルと変わる評価は、まるであのときのことを切原に思い出させた。
人の評価は千差万別だ。いくら完璧に近い人間がいたとしても、それが苦手な人は必ずいる。誰にも嫌われずに生きることは、霧を握りしめるくらいに不可能だ。
どんなに頑張って掴もうとしても、するりと霧は逃げてしまう。目標だって、夢だって、努力したからといって、必ずしも全ての人間が手に入れられるわけではないのだ。
そしてそれに対して、不公平だと駄々をこねるほど切原は子供ではない。

「…………」

目を閉じる。
瞼の裏に映るのは、数ヶ月前に赴いた墓場だった。
葬儀が終わり、土の中に入ってしまったかつての先輩。冷たい石に変わり果てた先輩は、何度切原が触ろうとも決して暖かくはならなかった。
いくら謝っても、悔やんでも、取り返しのつかないことだということくらい分かりきっていた。だというのに、切原の口から出るのは謝罪の言葉ばかり。向こうに届くわけでもない解放への言葉は、切原自身が楽になりたいという思いがあるからだ。
いっそ責めてくれればどれだけ楽か。
罵られて、呪われて、「怨んでいる」の一言でもあれば――あるいは、仁王から殺されれば、この悩みから一切の解放ができるというのに。
いつまで経っても、いくら願っても、その解放は訪れない。それこそが裏切った先輩からの罰なのかと思ってしまうほどに、それは切原にとって残酷な現実だった。

「……霊感があったらなぁ」

ポツリと諦め半分に呟いた言葉に、後の切原が後悔するのは、さらに数ヶ月後のことだった。

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