45-3

仁王が死んだ。
幸村は引き込もった。
真田は以前よりも厳しくなった。
桑原は普通であろうと励むようになった。
柳生は他人と距離を置くことを考え始めた。
丸井は会話をするのを極度に嫌うようになった。
柳は以前よりさらにデータに傾倒して動くようになった。
切原は――言わずもがな、ストレスで本人でも無自覚のうちに、神経を擦り減らしていった。

しかし、そういうときに限って、外野は無駄な接触を計ろうとする。

幸村が罪の意識に苛まれて苦しんでいようが。
真田が、仁王の死因を「たるんどる」の一言で無理矢理結論づけて、無意識のうちに風紀に厳しくなろうが。
桑原が、虐めの原因を“普通”でなかったからだと思い、日本人のように個性を埋没させようと努力しようが。
柳生が自分の行動に後悔し、日々を変わらないことで贖罪していようが。
丸井が、会話によって人間関係が広がり、また仁王のように裏切る人間が現れることを恐れようが。
柳が、過去に疑問を抱いて、しかし後悔をすることから目を逸らし、当てもない犯人探しという名の人間観察に励もうが。
切原が、変わり果てた先輩や、自身の過ち、仁王の死を後悔して、助けのない願いを日々抱くようになろうが。

そんなものは、他人には全くわからない。

野次馬が張り付き、証拠のない噂が飛び交う。誰かは大袈裟に泣き、誰かは憎々しげに悪態をつく。誰しもが自分が不幸であり、特別な境遇であり、非日常に生きているのだと主張しようとする。
しかし、それらは皆、外野なのである。
事件の渦中である当事者たちは、そこにはひとりとして存在しなかった。

巻き込まれたテニス部の新しい春は、陰鬱な雰囲気と共に始まった。

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