45-2

俺たちは罪を犯したんだ。
放課後。仁王雅治が病院に運ばれて数時間も経っていない、しかし、人の気配がまったく感じられない校内のとある室内で、幸村精市はそう呟いた。
日が落ちるのが早い冬にも関わらず、明かりひとつ点していない部室に、夕方というには些か薄暗い光が影を落とす。影とはいっても部室内は殆ど暗闇に等しいために、ほのかな闇か、そうでないか程度の違いしか与えていなかった。
幸村の呟きを、切原赤也は黙って受け流した。聞きたくなかったのか、あるいは自分はまだ正しかったと考えているのか。幸村が先輩であり、この部活のかつての部長であっても、この二年生は反応する気が全くなかった。

「俺たちは同じなんだよ。真実を知っていて、見過ごしていた。行動を起こそうとしたときには、すでに間に合わなかった。そういう人間なんだよ」

ゆらゆらと幸村の瞳が影に隠れては光る。

「つまり、俺たちは犯罪者だ。知っていて確かな結果を掴めなかったのは、ただの罪過だからさ――」

切原はロッカーに寄り掛かり、黙ったまま考える。
でも、俺は行動を起こして、結果を掴む直前まで来ていた。ただ地上で立ちつくしていたこの人よりかはまだ結果が伴うものだった。だから、゛俺たち゛ではなく、正確にはアンタだけなんだ。
その自尊心が、幸村ほどまでに壊れそうな切原の心を辛うじて食い止めていた。

「だから、俺たちは罰を受けるべきなんだ」
「……罰?」
「ああ、罰だ。そして、誰にも言ってはいけない」
「……はい」

黒い影が頷く。幸村から指示されなくとも、切原は元よりそのつもりだった。
廃人のようになりかけている幸村を見れば、同じような人間を増やしたいとは、到底、思うことはできない。切原がなによりも恐れているのは、仁王に化けて出られることでも、周りから責められることでもなく、真実を知った先輩たちが崩れ落ちる姿を目の当たりにすることだった。
切原の返事に満足したのか、幸村は立ち上がり、何も言わずに部室のドアを開けて出て行った。
闇から闇に向かい、黒に紛れて消えてゆく先輩の背を、後輩はじっと見つめ続けていた。

そして、その翌日から、幸村は学校に訪れなくなった。

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