03
仁王が意識を浮上させて目を開けると、知らない天井が目に入ってきた。少なくとも、保健室や自室ではないことは分かる。
「……びょう、いん?」
口から出た自分の声は掠れていた。いったい何日間眠っていたのだろうか。
というよりも、自分は生きているのか。
――いや、まさか、そんなことは無いはずだ。確かに己の身体の喪失を、生命維持機能がじわじわと下がっていくことを感じたというのに。
布団から見える右手をちらりと見た。包帯が丁寧に巻かれている。やはりここは病院なのだろう。
でも何故? あんなに重傷だったならば手遅れだろうに。どうして自分は助かった?
ぐるぐると仁王が行き場の無い思考の海に入っていると、不意に横から声を掛けられた。反射的に身構えてしまうのはもうどうしようもないことだと思う。
「あら、目が覚めたようですね」
視線を扉の方に向けると、そこには着物を着た柔和そうな女性が立っていた。何故着物かはよく分からないが、よく似合っている。
軽く頷いた仁王に、「よかった」と優しそうに女性は微笑んだ。そんな様子を見て、仁王は小さく呟きを漏らした。
「なして、俺は、生きとるんじゃ……」
己に問い掛けるように発したそれは、どうやら聴こえてしまったのか、女性は何故か悲しそうに眉を下げた。どうせ治療する際に傷を見て、虐められていることを知ってしまったのだろう。仁王は自身の気分が落ちかけているのを感じた。
「残念ながら、貴方はもう亡くなっていますよ」
「……は?」
だから、その予想外なその答えに、驚きつつもどこか納得して、安心した自分がいたのだ。
誰も俺を知らない世界
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