少年Kの独白。

仁王先輩に伸ばした俺の手は、触れることなく宙に浮いた。

耳に届いたのは残酷な音。
硬直する自分の身体。

気がつけば、下にはたくさんの野次馬が集まっていた。
呆気ない、あまりに呆気ない終わり。
人間はしぶとい生き物だなんて、誰が言ったんだろうか。
絶対に起こることはないと信じていたのに。そんな盲目的なまでの確信は、いとも容易く、先輩の死と共に、粉々に壊された。


フェンス越し、
視界から消える前に合った目と目。
そのときに見えた仁王先輩の顔を、俺は一生忘れないだろう。

――驚いたような、焦ったような、それでいて、どこか安心したような顔。

全部を“ような”、でしか形容できない馬鹿な俺だけれども、ずっと傍にいた仲間の表情くらいは簡単に分かる。

それは、いつも瓢々としている先輩からは、とうてい想像も出来ない顔だった。
どんな試合で追いつめられたときだって、決して見たとこがない表情。苦しくても、悲しくても、先輩はいつだって、感情をふらりと掻き消していたのに。

でも、そんな顔にさせたのは、俺たちのせいなんだ。


いつも丸井先輩と一緒に俺をからかって、あまりにしつこくて怒ると、にやにやと余裕そうな笑みを向けてきて、
いじわるばっかりだと思っていたら、ときどき、気まぐれにお菓子を俺にくれて、
俺が上手くいかずにイラついてるときは、何も言わずに傍にいてくれて、
俺が頑張ったときは、まるで自分のことのように笑顔になって、頭をぐしゃぐしゃに撫でて褒めてくれて、

他にも、仁王先輩との思い出はたくさんあるのに。
あんなにも仁王先輩は優しかったのに。

もう決して届かなくなった日常。
暖かくて明るくて、幸せだった日々。

信じきれなかったのは、俺たちのほうなんだ。


「――に、お先輩っ……、ごめんなさい……っ!!」


降りしきる雨の中、冷たい石になった先輩はただそこに佇んでいるだけ。
俺の声は誰にも届かず、暗い墓地に消えていった。


欠落したのは、

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