30

『私立立海大附属高等学校校則』より抜粋。
“一般生徒は特別な事情がない限り、部活動及び委員会のどちらかに所属しなくてはならない”



「……新学期からとはいえ、古佐は三年生だからな。委員会に入ったほうがいいと思うぞ」

そう言って、無理矢理半紙を押し付けられた。
担任教師からそんなことを言われれば、もう選択肢は決まっているようなものである。古佐こと仁王は会釈をして職員室から退室し、廊下をふらふらと歩いた。昼という時間帯であるため、それなりに人はいるが最も気になる者たちの姿はない。校内には春特有ののんびりとしたような、爽やかな空気が満ちていた。歩調に合わせて、黒く染めた髪がさらりと軽く揺れる。
仁王は先程渡された半紙に目を通した。そこには当然のように各委員会の名前や説明が連ねられている。美化委員会、パス。風紀委員会、パス。国際交流委員会、パス―――。頭の中で見えないバツ印を付けて候補を減らしていく。なるべく楽で、なおかつテニス部員たちとは関わりのないものがいい。正直なところ、委員会にすら所属したくないのだが校則なのだから仕方がない。
階段に差し掛かったところで、ズボンのポケットに入れてある伝令神機が音を出して震え始めた。自然な動きで物陰に移動し、手に取って確認する。液晶画面に映し出された虚の予測位置を確認すれば―――ここの敷地内だった。
また面倒な所に現れたものだ、とぼやきながら仁王は義魂玩を口に含んだ。



虚の鳴き声が空気を震わす。いくら叫ぼうと生きる者に届くことはないというのに必死になって暴れるその姿は、

「―――……哀れ、いや、滑稽じゃのう」

仁王が吐いた言葉を否定するように、虚はまた叫び声を上げる。そして腕を刃のように鋭く変形させて、攻撃まで繰り出してきた。先端を鈍色を煌めかせて襲い掛かる姿は簡潔にいえば、猫と包丁が融合したようなもの、と言うのが一番近いのだろう。間違っても、可愛い、という言葉から掛け離れた容姿をしていることは確かだった。
斬魄刀を鞘から抜き、軽く構える。その間、僅か一秒にも満たない。多くの魂が集まるこの場ではいかに早く終わらせるかが重要なのだ。そして、始解する必要性すらないレベルの虚ならそれは容易い話であった。
仁王に向かって攻撃を繰り出すために虚は大きく振りかぶった。よっぽど一撃で終わらせる気だったのだろう、隙が多すぎる。仁王は目を細めて、脚に力を込めた。手に握る斬魄刀がチャキ、と小さく音を立てて―――。



虚が消える姿はいつだって虚しい。断絶魔を上げる上げないに関係なく喧しくて、耳障り。それでいて、みな一様に幸せそうなのだ。自分が倒した虚が消え逝く姿を仁王は笑うことも、泣くこともせず、無表情で見つめていた。

―――ニャァと小さな猫の鳴き声が響く。あの冬の日に出会った子猫も確かこんな鳴き声だったか。

教室に戻ればとうに授業は始まっていた。後ろの開いている扉からそろりと入る。教師は単調な口調で歴史の事柄を述べており、生徒たちは各々に好きなことをしていた。ちなみに丸井はまるっきり授業を受ける気がない体勢で机に伏せっている。仁王が義骸に入ったことに気づく者は誰もいなかった。仁王は教科書を数秒凝視したのち、シャーペンを持ち、開きっぱなしのノートに文字を書いた。


Dissemblerは無料です

prev top next

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -