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放課後になれば学校の空気はガラリと変わり、解放感に満ちたものになる。生徒たちは部活動を開始したり、真っすぐに帰宅したりと各々の行動を始めていた。
仁王は鞄を持ち、真っすぐに昇降口に向かっていた。埃っぽい下駄箱の、見慣れない名前が書かれてる扉を開けて靴を取り出す。結局、今日は虚が一匹も現れかった。いや、正確に言えば現れることができなかった、のほうが正しいのだろう。
昇降口を出れば、正門の前には見覚えのあるオレンジ色が立っていた。それに向かって迷わず足を進めれば、いくばくも無いうちに向こうがこちらに気づいて手を軽く振ってきた。仁王の容姿は違えど、霊圧は変わらないために分かったのだろう。
仁王はにこりと優等生のような爽やかな笑みを作った。

「こんにちは、黒崎くん」
「え? お前って―――」

仁王の口調に黒崎が突っ込みを入れる前に、彼の手を引いて学校から離れる。道行く人たちは真面目そうな少年と、不良のような外見の少年との組み合わせが気になるのか、ちらちらと視線を向けていた。住宅街を抜けて、公園に入ったところでようやく仁王は歩みを止めた。

「敬語はキャラじゃき。久々じゃの、一護」

そしてにやりと笑う。
黒崎はようやく理解したのか、同じようににやりと笑い返した。

「本当に久々だな。元気だったか?」
「見ての通りじゃき、一護は合格おめでとさん」
「ああ、ありがとな」

去年受験生だった黒崎は無事大学に合格することができた。学科は薬学だったが、医療に関わる分野を志望していたのはやはり、父親の影響が大きいのだろう。

「―――そういや、今日ずっと虚を狩っとったのはおまんじゃろ?」

授業中も伝令神機が反応しては消え、反応しては消えてうざったらしいことこの上なかった。さらに身内の霊圧が辺りをうろついていては集中力も散漫になってしまう。全くもって、いい迷惑だった。
黒崎は斜め上を見ながら、曖昧な表情で頭を掻いた。

「あー……いや、せっかくの転入一日目だしさ、雅治も学校生活を楽しみたいだろうなー、って思ってよ」
「……はぁ。まあ、ありがとさん」
「なんだよその反応は。……もう住む場所は決めてんのか?」
「おん、近くのマンションと契約したなり」

仁王は鞄からペラリと契約書を出した。誰とは言わないが大方、涅の協力でも得たのだろう。でなければ死人が契約なんてできるわけがない。
黒崎は仁王の言葉を聞くなり、ほっとしたような表情を見せた。

「ふーん……なら俺はもう帰るぜ」
「え、もう? 一護って東京住みなんじゃろ? 遠いからウチに寄ればええのに」
「いや遠慮しとく。今日は本当に気まぐれで来ただけだし、俺にも任務やら課題があるからな」

じゃあな、と軽く手を振るなり、あっという間に黒崎は姿を消してしまった。
……すっかり忘れていた。あいつはいま死神状態だったのだ。瀞霊廷暮らしに慣れてしまって、着物を見ても違和感を抱かなくなっていた。ひやりと変な汗が仁王の背を伝う。
道行く人々がちらちらと見ていたのはきっと、少年が一人で変な体勢で早歩きをしていたからだろう。それはさぞかし奇妙な姿に映ったはずだ。全くもって仁王にとっては笑えない話であるが。
とりあえず、と仁王は携帯電話をポケットから出して、メールの作成画面を立ち上げた。黒崎にはお礼を言いそびれたから、せめてメールを送らなくては。大学生となれば忙しいだろうに、わざわざ自分のために時間を割いてくれたのだ。
公園のベンチに座って、カチカチと文章を作成し始める。ついでに瀞霊廷の近況でも書こうか、ルキアのことも書くと喜ぶかな。なんてあれこれ思考しているうちにいつの間にか空に紅が滲み、カラスが数羽飛んでいた。


浮遊する電波の思い

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