02

瀞霊廷に小さな嵐が来た。
それは表面化されずにいたが、しかし確実にじっくりと侵食をしていた。
誰も知らない物語は、確かにここで幕を上げることとなる。



十三番隊隊長の浮竹十四郎は病弱である。しかしそんな身体を恨みはすれど、健康体になりたいとは真剣に思わなかった。浮竹にとって、己の身体は負担であると共に、今の地位を築かせてくれたものだ。確かに、多少なりとも人望の厚さも手伝ってはいるのだろうが、それもまた長い間病床に臥せっていたから形成された性格である。だからこそ、浮竹は己の身体に感謝までしているのであった。

寒空の下、浮竹は白髪を風に煽らせながらゆっくりと歩いていた。こんなにも寒いというのに、空は晴れ晴れと澄み渡っている。身体が弱いために隊員たちからは外出を控えるか、移動を瞬歩にするように言われるているが、久々にこの自然を肌で感じたくなったため、四番隊に赴くがてらこっそりと散歩をしているのであった。
顔を上げると、目に映る木々たちはもうすっかり木葉を落として、寒々とした様子を見せている。あの戦いから数十日が経ったが、傷痕は尸魂界の至る所で見受けられた。お陰で未だ死神たちは万全とは言えない状況下で仕事をこなしている。
疲労が色濃く見える隊員たちに、帰りに甘味屋でも寄って菓子でも配ろうかと思案しつつ林を通り過ぎようとしたそのとき、微かな音が浮竹の耳に届いた。

「……?」

感覚を研ぎ澄ましてみれば、確かに微弱だが霊圧も感じられる。一体、こんな所で何をしているのだろうか。疑問を持った浮竹は、迷わず林にさくさくと脚を踏み入れた。
幾分もしないうちに、浮竹は察知した霊圧の持ち主を発見した。だが、その姿を確認した途端、驚愕することとなった。

――青年、と言うには語弊を感じられるほどの姿をした少年が倒れていた。ざっと見るに、あの死神代行として働いている黒崎一護と同じくらいの歳だろうか。まだ何処か幼さを感じられる。

「少年! 大丈夫かい!?」

浮竹は駆け寄り、身体を起こしたが、荒い息を繰り返えすばかりで意識は無かった。ふと見ると、全身の至る所に何故か傷ができており、辺りを赤く染めていた。何故、血の臭いに気が付かなかったのだろうか。これは酷いなんてものではない。重体だった。
状態を確認するなり、すぐに浮竹は彼を抱き抱えて瞬歩をした。行き場はもちろん四番隊隊舎。最初から行く目的地に、新たな事件を連れていく事となった。



四番隊隊長の卯ノ花烈は驚愕した。とはいっても、実際は内心だけであり、表情は大して変化はさせていなかった。しかし、それでも確かに眉を上げるほどには驚愕したのだった。

「悪いが卯ノ花、この子を治療してやってくれ!」

いつもの薬の補充をしに来た浮竹が、隊舎にやって来るなり開口一番にそう叫んだ。
ただならぬ浮竹の様子に早足で玄関まで行けば、彼の腕には重体の少年が抱えられていた。そして浮竹に促されるままに治療を施している途中、卯ノ花はふと違和感を覚えた。

――痣が多すぎる……。

虚に襲われて負傷したのならば、普通は切り傷や抉られた傷になるだろう。しかしながらこの少年には、そのような傷は全く見受けられなかった。しかも全身にある痣は数カ月前だと確認させられるほどに古いものがあるのだ。
一体、この少年に何があったのだろうか。
疑問を抱くものの、今の卯ノ花にはこの目の前にいる患者を治療することしかできなかった。


時は刻々と過ぎてゆく

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