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立海大が全国優勝をしたらしい。
らしい、というのは直接仁王が聞いた訳ではなく、人づてで知ったものであるからである。しかしながら、仁王に伝えた人物との間には確信たる信頼があるので、おおよそ真実と言って間違いないだろう。
優勝したのは高校のほうだった。中学は越前リョーマで有名な青春学園がまた優勝したようだ。立海を纏める部長、切原赤也が決して弱かったのではない。ただ越前リョーマが強すぎただけなのだ。

「一護ってテニスが好きなんか?」

毎月此処にやって来る度に、仁王にテニスの情報を伝える黒崎。
一見すると不良に思われる男子が着物を身に纏い、月刊プロテニスを片手に尸魂界を歩く姿は、何というか、かなりシュールな光景だった。
プロテニスをわざわざ買わなくても、言葉で伝えればいいものを、と仁王は思う。雑誌が高価なわけではないが、これは少し無駄遣いなように感じられるのだ。

「ンなワケねーだろ。俺の親父が買ってくるからタダで譲ってもらってるんだよ」
「ほう、泥棒か。一護もやるのう」
「親からだから盗みじゃねーよ」
「いや、盗みじゃろ」

パラパラと適当に捲ったページには、顔見知りの仲間の写真が載っていた。サーブを打つ瞬間。真剣な表情が写っている。
知っているようで知らない姿だった。成長期とはすごいもので、暫く見ていない間に随分と雰囲気が変わっていた。もちろん、根本的なものは何一つ変わっていないのだろうが。死んでから全く成長しない仁王からすれば、皆から大きく置いてきぼりを食らったように錯覚する。

「幸村はもうレギュラーか……」

いつの間にかどんどん時間は過ぎていて、たった数ヶ月前の記憶が朧げで、頼りなくなっていく。
普段のあいつらの声は何だったか。確信を持って思い出せない。過ごした日々さえ曖昧になっている。それなのに、あの時の怒鳴り声と痛みは身体に染み込んで、全く消えてくれないのだ。
焦るようにまたページをパラリと捲ったら、かつての仲間の写真と目が合った。忘れるなんてコトしていないよね? そう語りかけられた気がした。
忘れたくても、忘れられないんじゃ。
溜め息を飲み込んで、雑誌を無言で閉じる。写真に映り込んで元気にコートを跳ねているテニスボールに、何故だか無性に八つ当たりをしたくなった。

嫌いじゃない。憎んでもいない。でも、忘れたいことだってあるのだ。


身勝手なお魚さん

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