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「あ、雅治おはよー!」

こちらへ来た途端に、駆け寄って抱き着いてくる子供。
銀色に輝く尻尾を犬のように振りながら、幸せそうな笑顔を向けてくる。

「おはようさん」

いつの間にか恒例となった動作で、仁王はその頭を撫でた。ふわふわとした子供特有の髪質が心地よい。撫でられる子供も仁王の手が気持ち良いのか、嬉しそうに頬を緩ませていた。
毎回こちらに来る度に雅治雅治と自分の名を連呼し、犬のように懐いてくるその姿は癒し以外の何者でもない。知らず知らずの間にこちらまで口元が緩んでしまうのは仕方のない話だろう。

そんなことを考えていると、ふと、この子供の名前を知らないことに気がついた。
これまで幾度となく会っているのに、一方的に名前を知られているのはどういうことなのだろうか。
思い返せば、自分はこの幼子を「お前さん」やら「おい」などの二人称でしか呼んでいなかった。
いくら向こうが名乗らないと言って、それは少しまずいのではないだろうか。
仁王は撫でる手を止めて、未だ自分に抱きついている子供に話し掛けた。

「――そういや、名前はなんちゅうんじゃ?」
「あれ? 言ってなかったっけ?」

きょとんとした顔でこちらを見上げてくる子供。
どうやら本人すら忘れていたことらしい。
仁王の困惑する空気を感じたのか、子供は一瞬、悔いるような表情を見せた。
そして次の瞬間には、さっきの表情が錯覚だったかのようにまた笑顔になる。

「俺の名前は玲幻だよ」
「そうか、いい名じゃな。改めてよろしくのう玲幻」
「うん、よろしく!」

ぱたぱたと尻尾を激しく振りながら、さらに強く抱き着いてきた。
この不思議な空間にこの子供、玲幻が独りきりでいる理由も、その半獣のような容姿の理由も分からないが、今まで過ごした時間から彼がとても純粋な性格だということは十分に知っている。
どんな時も喜怒哀楽ははっきりと表すし、ちょっとした悪戯ですぐに騙される。
そのくせ、花札やポーカーなどといったカード勝負は強いのだからまったく不思議なものであった。
異なっているようで似ている存在。
例えるならば、自分と子供はまるで鏡だった。



「――何かあったら俺の名前を呼んで。きっと雅治の力になるから」

世界が消える瞬間。
小さな狐はそう言うと、静かに微笑んで消えた。

また明日、なんて言う必要はなかった。
それは確信に満ちた仁王と子供の関係。


別名は友情関係

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