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※オリキャラ注意!


注文した物は大した時間を掛けずに運ばれてきた。
目の前には顔見知り程度の仲である同僚。
苗字は確か坂谷だったか。下の名前は知らないがさしたる問題ではないだろう。
ニコニコと笑顔を振り撒く店員は、やるべき事をやった後はそのままさっさと店の奥に消えてしまった。

「いやー、それにしても仁王もサボったりするんだな」

驚いたように言う坂谷の前には団子が沢山積み重なっている。正直、仁王にしてみればそちらに驚きだった。
一体その痩身の何処にそんなに団子が入るのだろうか。これは見ていても十分に甘ったるい。
自分の頼んだ珈琲を飲めば、程好い苦味が口に広がった。

「……俺だってサボることくらいするなり」

心外ではないが、そう言われたことが心外だった。
こんな目立つ容姿に、あまり人と関わりを持とうとしない態度を取っているのだから、普通なら逆に全く仕事をしていなさそうに見られるはずだ。
呟いたはずの言葉は、意外にも聞こえていたのか目の前の男はしらっと反論してきた。

「でも仁王っていつも仕事には真面目だし、任務もちゃんとやるじゃねーか。……そーいや、もう斬魄刀の名前は聞いたのか?」
「は? 名前?」

鸚鵡返しをすれば、次期席官候補の仁王が知らないなんて意外だな、と笑われた。ついでに言えば、次期席官候補というのも初耳だ。
んー、と悩むような声を出しながらも団子を食べ続ける姿は、どこぞの甘党によく似ている。

「斬魄刀っつーのは、個人によって系統と名前が全く違う刀なんだ。んで、その名前は斬魄刀と対話して聞き出さなくちゃならない」
「まるで斬魄刀が生きとるみたいな言いぶりじゃな」
「ああ、あながちそれは間違っちゃいねーよ」

仁王の言葉に頷き、坂谷は腰に差してある斬魄刀を軽く叩いた。
カシャンと日本刀特有の金属音が小さく鳴り響く。

「斬魄刀は言わば自分の潜在意識、分身みたいなモンだ。だから対話するときは深層心理のような場所に行かないとできねー」
「……ほう」
「ま、そもそもその対話自体がみんなできねーから難しいんだけどな」

坂谷はそう言い切ると、満足そうに団子を口に入れた。

「摩訶不思議な場所にいたら、成功なんだとよ。――優秀な仁王だったら、もしかしてもう出来てんのかと思ってたんだけどな」
「じゃあ、そう言うお前さんは名前を知っとるんか?」
「まっさかー。あんなん簡単に出来るなんて化け物くらいしかいないだろ」

仁王の言葉に、坂谷はあり得ないと言わんばかりに肩をすくめた。
憧れはするけれども、そこまで行き過ぎた力はいらない。空気がそう物語っていた。
それは人間が抱く、ごく当たり前の感情なのだろう。
テニスだってそうだった。今まで三強だ王者だと言われていたが、その裏にはやはり畏怖や妬みの響きが多少なりとも含まれていた。特に、中二にして唯一レギュラーであった赤也は今まで一体何を言われてきたことか。
時として圧倒的な強さはこうして孤立を生み、擦れ違いを作ってゆくのだろう。

「普通に生きれれば俺はそれで十分かなー」

笑顔で吐かれた明るい声が、狭い店内に響いて墜ちた。


擦れ違い会合(meet meet)

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