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尸魂界全土を揺るがせたあの藍染との戦いから早四ヶ月、いまだ傷跡は深く、瀞霊廷はまだまだ不安定なままだった。
重要な仕事を担う隊長が三人も抜けており、怪我を負った隊員も多かったので、ある意味当然と言えば当然の話だが、その所為で、平常の時でさえ決して暇とは言えない死神の仕事が、更に忙しさを膨大させていたのであった。
もちろん、この尸魂界に藍染とすれ違いにやって来た仁王にとっては、この忙しさが普通で日常であり、そんな裏事情なんて知るよしもない話であるが。
季節は冬真っ只中。極寒ではないが、最近では雪がよく積もるようになった。
お陰様でどこぞの隊では雪合戦を始めたり、酒を飲みにサボる死神がちらほらと見受けられる。
そんな中で十三番隊の仕事場はやはりというところか、落ち着きのある空気が漂っていた。
朝から及ぶ書類整理がやっと一段落し、仁王の全身は長時間座っていたために強張っていた。伸びをしながら背中を椅子に預ければキィと小さな音が立つ。ふと視線を上げれば窓からは澄んだ青空が見えた。
硝子越しに名も分からぬ小鳥たちがパタパタと忙しなく飛んで通り過ぎていく。
真冬であるため窓は開けていないが、僅かながらも昼間の暖かい陽気がここまで感じられた。
「…………」
力を抜けば、手から筆がカタリと音を立てて滑り落ちる。
自分が死んでからもう数ヶ月。まだ中学生の自分がこうして働いているなんて誰が想像できただろうか。
誰よりも早く人生が終わった者が、誰よりも早く仕事をするなんて、なんとも皮肉な話だ。と仁王は自重の笑みを浮かべた。
気がつけば暦はもう四月。きっと現世では桜が綺麗に咲き誇っていることだろう。
もしも自分が生きていれば、とっくに卒業式を終えて、今頃は部活の仲間と共に高校に入学している予定だったのだ。
「――……サボるか……」
だから、この職務放棄は自由への逃亡ではなく、誰かさんへの卒業と入学祝いなのだ。なんて理由をつけてみるのも悪くないと思った。
冬景色と春爛漫
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