20
いつまで経っても変わらない景色に、仁王は諦めたように溜め息をついた。
初めこそなんとか出られないかと試行錯誤したものだが、幾度もここに来て何をやっても無駄だったために、いつしかこうして終わるのを待つようになった。
所詮、祭と言っても無人のものを誰が楽しむというのだろうか。
空は己の心情のを表すかのように曇っているし、生き物は何一ついない。
空虚のような音楽と、見かけだけの綺麗な屋台が立ち上るだけ。
ふと、それはまるで自分の存在を無機物に具現化させたようだと思った。
意味の無い言葉を吐き、外見で人が寄って来る。
自分の心に近付いた者はいるが、踏み込んだ者は全然いない。
まあ、今さらそんなことに寂しいとは思う心は持ち合わせてないが。
徒然と時が経ち、何度目かになる溜め息をつこうとしたとき。カツン、と聞き覚えのある音が辺りに響いた。
音源は分かっている。自分の足元の方向からだ。
仁王がゆっくりと上体だけを起こすと、やはりそこにはあの子供が立っていた。
琥珀色の瞳と視線が数秒絡む。
最初に口を開いたのは、子供のほうだった。
「――初めまして。オレと友達になってくれる?」
白銀色の尻尾がゆらりと揺れる。
彼の顔こそにこりと笑ってはいるが、目は不安げに揺れていた。
「友達?」
前回あんなに派手な(しかも一方的な)喧嘩をしておいて、今度はそんなことを言う。
全く子供の意図が理解できなかった。
「そう、友達。オレはここでずっと一人だから。……もしも嫌だったら話し相手でもいいからさ……」
縋るように見つめてくる瞳。
唐突な話だったが、子供の言うことに嘘は感じられなかった。
確かに、こんな形ばかりの凍てついた空間にずっといたとすれば、縋り付きたくなる気持ちも十分わかる。
自分でさえ嫌になるのに、尚さらそれがこんな小さい子供なのだから、今までどれだけの思いを抱いてきたのだろうか。
「ほうか。……なら、俺がここにいる間は紛らわしちゃる」
立ち上がって自分と同じ色の髪をくしゃりと撫でれば、子供はきょとんとした顔をしてこちらを見上げてきた。
その顔が、もう会えなくなってしまった自分の弟と被る。
「本当に?」
「……約束は破らんよ」
その言葉を聞いた子供は、嬉しそうに破顔した。
「うん!」
小さな銀と笑顔
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