01

始まりはなんだったんだろうか。

下から吹き付けてくる風に髪を撫でられながら、俺はぼんやりと空を見上げていた。


風に乗って、楽しそうに笑う女子生徒の声が聴こえてくる。笑うなんて、最近の俺は全然していない行為だ。
笑わないのではない。笑えなくなったのだ。


思えば、一ヶ月前にあの女がマネージャーになったときから、全てが狂ってしまったような気がする。

「――ですぅ! よろしくねぇ〜!」

十月、なんていう中途半端な時期に転入してきたあいつは、丸井の推薦からテニス部にマネージャーとして入ってきた。立海は中、高、大とエスカレーター式だから、三年生の引退は名目上でしかなく、実際は部活に励んでいるのが主だった。
丸井が推薦してきた女子――。もちろん、最初はみんな反対をしていたが、やがてあれほどテニスに掛けていた情熱も根気も、まるで最初から無かったかのように、いつの間にか、俺を除くテニス部の奴らはみんなあの女に固執しだした。口を開けばあの女の話題。休憩の度に相手にしに行く仲間たち。
そしていつしか、コートで練習をするのは俺だけになってしまった。


そんなある日、俺は呼び出しを受けていた。
指定場所は屋上。なんつーベタなところじゃ、なんて呟きながら行った先には、あの女がいた。

「わたし、仁王くんが大好きなのぉ。だから付き合ってくれるよねぇ?」

もはや疑問文ですらない、確信のこもったその台詞にイラついた。
お前が入ってきてから皆はおかしくなってしまい、テニス部はバラバラになったというのに、その元凶とのうのうと仲良く付き合え? ふざけるのも大概にしろ。
だから、勢いに乗って、あまりにもハッキリと俺は断ってしまったのだ。

「すまんがおまんには興味が無いんじゃ。諦めてくれんか?」


いま思うとあの時に断っていなければ、いや、あんなにハッキリと断っていなければ、こんなことにはならなかったのだろうか。
後悔先に立たずとはよく言ったものだ。今さら後悔したところでもう遅いのだろう。過ぎ去ってしまった時を元に戻す術はどこにも無いのだから。
いつから俺たちはこんなにバラバラになってしまったのだろうか。絆とは、仲間とは、そんなに脆いものだったのだろうか。


ぼろぼろになった自分の身体。
すがすがしく晴れきった青い空。
フェンスを握る力を緩める。
優しく一陣の風が吹く。
揺れる視界。
伸ばされた手。


「――――っ!!」



一体それは、誰の声だったのだろう。


そして世界は混じりあう

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