17

それはきっと、過ぎ去った過去の夢。
もう手に入ることは叶わない、泡沫の幻。


――お前一年なのにもう染めてんの? うわー、勇気あるぜぃ。

入学早々、声を掛けに来た男子は菓子を片手に笑っていた。


――あれ、君もテニス部に入るのかい?

同じクラスになった男子は女子のような儚い笑みを向けた。


――良い戦いだった、また手合わせを願おう。

部活に入ってから初めて試合をした相手の男子に、いきなり握手を求められた。


――ふむ、いないと思ったらここによく現れるのか。

ノートを片手にした男子はそう言いながら隣に座った。


――毎度毎度先輩をからかって、怖くねーのか?

苦労人の男子は、そう言って心配してきた。


――ほら、またサボってないで練習しますよ。

同学年にも敬語を使う男子は、礼儀正しく自分に手を差し延べてきた。


――あー! また騙されたっ! ひどいっすよ先輩!!

いつも騒がしい男子はどんなに悪戯されてもしつこくついて来た。



小さい頃から、人とは違う髪と瞳の色のせいで、異質な目で見られてきた。さらに霊感が高かった俺は、普通の人と幽霊の違いがなかなか分からなくて、悪目立ちをしてしまっていた。周りからは嫌がらせに始まり、虐めに差別。傷をつけて帰宅するのは毎日のことで、唯一の味方は家族だけだった。
それに疲れきっていた俺は、何時しか誰とも関わらないように壁を築いて閉じ篭った。そうすれば傷つくことは無いし、邪魔にはならないで済む。
これでもう、誰も自分に関わってこないと安堵の溜め息をついた。

そんな自分に、いきなり現れた彼らは笑いかけて手を握ってきた。普通の友人みたいに、ふざけたり遊んだり、色々なことを教えてくれた。
もう自分には不可能だと思っていた事がたくさん手に入った。
多少の嘘はついたが、それでもやっと知ることが出来たものだった。

「――仁王!!」

楽しかった。
自分には十分過ぎる程の日々だった。
どんなに距離を取っても、いつも振り向いてくれた仲間だった。

だから、皆との絆がバラバラになって暴力を振られるようになっても、今さら嫌うなんて自分には――。



「――……、朝か……」

目を開けると見慣れた天井が入ってきた。
夢を見ていた気がする。でも、どんな夢だったか、内容はもう忘れてしまった。
ただ悲しくて、暖かかったのは覚えている。

不意に頬に当てた手は、どこかで雨漏りでもしたのか、少しだけ濡れていた。


憎んでなんて、いないんだ

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