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「雅治くん、ちょっといいかい?」

三月も下旬に入ったある日、体調が優れずに床に伏せっていたはずの浮竹に声を掛けられた。特に拒む理由も無い仁王は、当たり前に二つ返事で浮竹の後について行く。
隊の雰囲気というのは、それを纏める隊長によって影響されるものだが、十三番隊舎はやはりというべきなのか、どことなく家庭的な空気を醸し出している。それは廊下一つ歩くのもそうであり、身元不明の仁王が隊長の浮竹と共に歩いているにも関わらず、すれ違う隊員たちはみな驚くことなく挨拶を交わしているところで分かるだろう。

「で、何の用なんじゃ?」

通された部屋はどこにでもある普通のものだった。それこそ客間でも何でもない、ただの和室だ。座布団を渡されて向かい合って座ったが、浮竹の意図が分からずに仁王は不思議そうに小首を傾げた。それとともに銀色の髪がさらりと揺れる。
浮竹はつい先程起きたばかりなのか、少し乱れた着物を正しつつ仁王に一言。

「俺の下で働かないかい?」
「――……は?」

予想外の言葉に、思わず仁王は間抜けな声を漏らしてしまった。同時に庭から三月にしては遅い、一季節遅れている尸魂界にしては早い雪がはらりと木から落ちる。
浮竹も間違えたのか、慌てて片手を振って訂正した。

「あぁ、いや、言い間違えた。……雅治くん、死神にならないかい?」
「……どういうことじゃ」

聞き返した仁王の目には、懸念の色が浮かんでいた。何故、いきなりそんなことを言うのか、全く理解が出来ない。
確かに何でもない自分が此処にいる理由は全く無いに等しいし、正式には許されていないのだろう。しかしながら、ならばそれこそ何を今更、という思いだった。
そんな仁王の様子を見て、予想通りの反応だったのか、浮竹は真面目な表情で続きを話し始めた。

「上からの……、中央四十六室からのものでね。能力が高いのならば、暇を持て余すよりも、死神になって任務をしたほうが良いのではないかという話だ。ちょうど来月の四月は新しい編入や異動の時期であるし、どうせなら慣れ親しんでいる俺の隊に入ってもらおうかと思うんだけど、どうだい?」
「……はぁ」

それは突然の誘いだった。


徒然と波瀾

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