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「――そして、気がついたら四番隊の救護詰所で目が覚めたんじゃ」
「……」

仁王の話はルキアたちの想像以上の内容だった。
自然とお互いに黙りこくってしまい、部屋は沈黙に満ちる。周りの雑音は明るいものだったが、この空間だけが切り取られたかのように暗かった。
どう仁王に言えばいいのか分からない。同情や哀れみの言葉なんていらないのは当然だが、他にかけるべき言葉も見つからなかった。仁王は仁王で何か思案する様に外の景色を眺めている。
と、そのとき、部屋の襖ががらりと開けられた。

「う、浮竹隊長!?」
「あぁ朽木、そのままでいい」

突然の隊長の登場に、居すまいを正そうとしたルキアだが、浮竹に制止されて渋々元に戻る。

「…廊下で立ち聞きさせてもらったよ」
「!?」

浮竹は仁王の顔を見ながら淡く微笑んだ。

「雅治くん、よく頑張ったな。お疲れ様」
「っ……な、んでじゃ」

仁王の顔が歪んだ。自分で自らの命を絶ったというのに、何故浮竹は責めないのか理由が分からない。聞いたのならば幻滅するだろうと思ったのに、浮竹はそんな素振りは全くせずにむしろ微笑んですらいるのだから。

「雅治くんは仲間の心を優先させて、命を絶ったんだろう?」
「……っ! でも、俺はもう限界だったんじゃ! 自殺は仲間を盾に正当化しただけぜよ。俺はそんなに言われるほどの奴じゃなか!」

そうだ。自分は褒められるようなことは何一つしていない。女子を振って、仲間に傷つけられて、これ以上自分が傷つくのが嫌だったから逃げただけだ。所詮は己の保身。何度言われても付き合わなかったのは仲間を護るため、なんて建前だ。本音はあの女が、玖苑が怖かっただけなんだ。――結局は、全て自分を護るためだけにした行動だったんだ。
だから、俺はそんなふうに微笑まれたくない。

「じゃあ君は仲間を責めているのかい? 怨んでいるのかい?」
「怨んでなんかおらん! あやつらは護りたいものを護ろうとしてたんじゃ。そんでそれが皆あの女だっただけなんじゃよ……ただ、」
「……ただ?」

浮竹の視線を逸らすように俯いた仁王の顔から、水滴がポタリと落ちた。


「――……あいつらには信じて欲しかったんじゃ……」


今は亡き一つの願い

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