孤独はいつも (1/1)
今日も学校は騒がしい。
俺は昔、中学校に通っていた頃の事を思い出した。
今ではなく、前世のころの記憶。何故か決して色あせない思い出。汀目と零崎の破綻した二重生活を日常を送っていた自分は所詮どっちつかずに揺れていた。人間なのに殺人鬼で、殺人鬼なのに人間だ。それはまるで、羊たちの群れの中に羊もどきの狼が一匹紛れこんでいるように、さぞかし滑稽で傑作だったのだろう。

「皐月! パス!!」

今は体育の授業中だ。
種目はメジャーなスポーツのサッカー。
パスを仲間からされて前のように早く移動できるわけもなく、俺はそのボールを取り逃しそうになった。それに内心舌打ちをして、ぎりぎりで蹴りゴールへと向かう。

――前なら、前なら。
そればかりが頭を占める。
どんなに鍛えても努力をしても、前世の殺人鬼もどきだった俺よりも、この身体は才能も本能も性能も効能も無かった。
つまりは凡人。
つまりは無才。
周りはそんな俺をそうとは思わないらしく、事あるごとに褒めてきた。
――運動神経あるね。走るの早いよ。かっこいいね。勉強できすぎ。成績高いな。喧嘩つよいだろ――。
などなど。
確かに普通よりは能力はあるかもしれない。才能はあるかもしれない。でも、裏世界の奴らと比べたら、まだまだだった。
こんなんじゃ、兄貴たちには到底追いつけない。兄貴にはもう会えないのに、そんなことばかり思い続け過去に依存している俺は、きっと一種の亡霊で、戯言遣いに言わせてみれば、死んでいるように生きている、というところか。恐らく今、鏡を見たら、俺はあいつみたいな目をしているはずだ。
――傑作だな。
ゴールに自分がシュートしたボールが入ったのを見届けて、自嘲ぎみに笑いながら呟いた。

――戯言だよ。
ここに返してくるやつはいないというのに、そんな声が聴こえた気がした。




一賊の奴らがみんな死んで、零崎というものが無くなったときは、正直言って寂しかった。いや――最初はそうでも無かったのだが、後からじわじわとそれはやってきた。
つまりは――伊織ちゃんが言った通り、きっと俺は誰よりも悲しかったはずなんだと思う。どんなにとち狂っていて、うざい奴らの集団だったとしても、結局は俺の家族であり、兄弟だったから――。失って大切なものに気付くとはよく言ったもので、確かに俺も、全てを失ってからそれに気づいた。
居場所がない。
帰る場所がない。
名乗る意味が――ない。
とある生意気な死神が言ったように、零崎一賊の恐ろしさは一賊であることだった。
つまりは、集団。軍団。郡体。
孤独な殺人鬼は無名で非力だ。
故にみんなで集まって、家族というものを作ったというのに。
橙色の暴力に殺されて、最終的に遺されたのは、たったの二人だけだった。
――二人。
それっきりの人数。
それの上限も下限もない人数だ。
家族、と言うよりかはどちらかと言えば、夫婦の方がお似合いなくらいだった。

それから、俺が死ぬまでいろいろとあったが、結局は前みたいに大勢にはなれなかった。まぁ確かにあんな短期間で、二十人近くも零崎に覚醒する人がいたら、世界のほとんどが零崎尽くしになってしまうから無理はあったけれど。
それでも、俺にとっては誇れる家族であり、大切な兄弟だった。いつしか俺が長男と呼ばれるようになったのは、きっとまた兄貴から受け継いだ、一つの何かだった。

その何かが分かったのは、俺が死んだとき。
今度は自分の命を失ってから気づいたものだった――。






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