深遠の闇に解ける (1/1)
キーンコーンカーンコーン…… 本日最後の授業の終了を知らせるチャイムが、学校全体に鳴り響く。 俺は、それを聴き、コンクリートの上から起き上がった。 コンクリートの感想は、もう冬に入ったので少し肌寒くて、寝そべるには最適とは言い切れなかった、と言うところか。 制服に付いた埃などを手で払いながら、教室に向かう内に、段々と生徒たちの喧騒が増えてゆく。 今日は金曜日だからなのか、いつもより、尚更嬉しそうな声をしていた。 名目上、俺は体調不良ということになっていたので、しばらくドアの前で待ってから、中に入る。 時刻は三時四十五分。 そろそろHRが始まる時間だ。 ガラリ、と僅かに音を立てて開けても、それは喋り声や他の雑音に紛れてしまう。 何故か、それが無性に寂しくて、そんな思いを抱いた自分に苛ついた。 人知れず俺は軽く溜め息をついて、一番後ろの窓際の席に向かう。 日当たりが良好で、風も心地良いこの席は、全ての運を尽くして、俺がくじで引き当てた場所だ。 全て、なんて傑作だけども。 席に着くと、前に座る俺の友人だと言う男子が話し掛けてきた。 俺はそれに、馬鹿みたいに笑って会話を交える。 ――だいじょーぶだったか? ――かはは、今はなんともねぇよ。心配してくれてありがとさん。 ――そっか。 つうか、皐月が体調悪いなんて珍しいよなぁ。 ――何だよ。馬鹿は風邪引かねぇって言いてぇのか!? 皐月一也。 それが今の俺の名前だ。 見た目も、名前も、生まれも、何一つ前の俺と違っていて、初めてそれを知ったときに愕然とした。 鳶色の髪と瞳。 親は普通のサラリーマンと専業主婦。 何も問題のない、普通で平凡な生活。 それこそ、俺の兄貴が望んだような平和な日常だ。 そして、俺は一切の殺人能力と戦闘センス、さらには殺人衝動までもを失っていた。 …あの闇医者によると、俺は殺意しかないらしいが、俺だって後で普通に覚醒をしたんだ。そこは伊織ちゃんに感謝をしたい。 そんな御託を並べても、現状は変わらなかった。 そう。 俺は、ただの、人になっていた。 一般人。 鬼が、殺人鬼が、専ら殺す対象に。 勿論、そんな現実を認められなくて、俺は零崎一賊や裏世界の奴らを探し回った。 でも、ここには、 自殺志願も愚神礼賛も少女趣味も寸鉄殺人も最新の零崎も人喰いの双子も闇突も策師も病蜘蛛も人類最強も人類最悪も人類最終も殺し名も呪い名も、 俺の鏡である戯言遣いもいなかった。 それ以前に、世界すら分けられていない世界だった。 でも、今も俺は諦めきれずいた。 いつか、誰かに逢えるはず。 そう、盲目的に信じている。 そして、いつの間にか誰もいなくなった教室で独り呟いた。 「―――みんな、どこにいるんだよ…」 それは、誰にも伝わることなく、暗い教室に響いて消えた。 深淵の闇に解ける (俺の、まるで迷子のような声)(はやく、早く、誰かに逢いたい) …………………… 人識くんです。 シリアスです。 最終的にどうなるかはわかりませんが、つらつらと書いていきたいと思っています。 前頁:次頁 ← |