孤独はいつも (2/2)
人識くんが死んで、一年が経ちました。

当時、彼が亡くなってからしばらくの間、わたしはずっと泣き明かしていてばかりでした。
わたしは人識くんのように見栄は張りませんし、意地を張りません。
毎日、毎日、泣いていました。
いつもなら人識くんはそんなわたしの事を、しょうがないな、とあの能天気な笑って励まそうとしていたことでしょう。
――なんやかんやと言っておきながらも、あの人は根本的には優しくてお人よしでしたから。
でも、もうその慰めてくれた本人はいないのです。
それを思い出しては泣いて、また思い出しては泣いて――。
悪循環でした。

流石に今はなんとか折り合いをつけて、わたしは元気に殺人をして日常を送っています。
昔、人識くんとした、ふるふるシェイカーを賭けたチキンレースは――もう終わってしまいましたから、何の気兼ねもなく迷いもなく、すっぱりあっさりとわたしは人を殺せるのです。
相変わらず人を殺すというのは気持ちの悪いことでしたが、わたしは零崎ですので。いつも誇りを持って呼吸をしていますとも。
人識くんの遺した家族は、それくらい素晴らしいものでしたからね。

そういえば、家族愛と言うのはつくづく良いものだとわたしは思います。――惚気ではありませんよ?心からの本音です。
いつだったか、わたしがどこかのゲームに巻き込まれたときにとある闇口の方と話をする機会がありました。
その方は――自分の娘よりも全て主人を優先させていました。優先順位は一から十まで主人で、娘などどうでもいいのです。今思えば、闇口としては至極当たり前のことなのですが、当時のわたしには、全くというほどそれを許容出来ませんでした。理解の範疇を超えていましたし、それとなくしか知らなかったので、当然と言えば当然ですけれども。
そしてその方と話をしたとき、
――わたしは零崎でよかったなあ。
とすぐに思いました。
家族を大事にしない家なんて、わたしにとっては地獄のようなものですよ。闇口なんてところとは正反対です。
一から十、零から百まで、家族愛。
それがわたし達、零崎一賊ですから。

人識くんも結局のところそういう意味では零崎でした。
なんやかんや言いながらも家族は守ろうとしていましたし、嫌ってはいませんでしたから。
もし人識くんが今、家族が一人もいない世界にいたら、きっと寂しがるんじゃないんですかね―――。



*



――ある日俺は死んだ。

家族の仇討ちでもなく、敵からの復讐でもなく、純粋に寿命からだ。
裏世界に生きる者としての最後としては、それは傑作に異常で異端だ。しかも年齢は普通の平均寿命だっただけに更に傑作。布団の上で死ななかっただけまだましだ。あの闇医者への悪あがきとも言えるけどな。
死にはなんらかの《悪》がいる、と兄貴は言っていたけど、俺の場合は悪運でもなく悪縁でもなく、きっとそれなんだと思う。


家族の仇討ちの殺人、零崎中だった。
地面に倒れるまでが酷く、緩慢に感じた。
どさり、と伏しても、家族たちはまだ気づいていない。気づけない。
俺だけが一人きりでここら一帯を解体していたからだ。絨毯無差別攻撃、なんて家族を巻き込む殺人スタイル。危険すぎて近づけさせられない。
敵はいない。だけど家族もいない。
静かな空間の中、俺は浅く息を吐いた。

――これでやっと死ねる。
――まだ死にたくない。

二つの想いが対立する。
やっと分かった絆、手に入れた家族、大切なモノ、忘れなくない記憶、かけがいのない想い出、戦い、出会い、別れ。
まだ一賊を置いて逝きたくなかった。
いつも何かを掴もうとしても、滑り落ちて掴めない。
手に遺るのは虚無ばっかりだった。
そんななか、やっと掴めたものなのに――。

俺はいつもそう、だった。

運が悪いからか、縁がないからか、そういう運命だからなのか。
そもそも殺人鬼なので、両親や友人、恋人、身内なんてできるわけがない。

殺人鬼が表か、人間が表か。
はたまた、両方表なのか。
それとも、両方裏なのか。
昔、俺が幼い頃に頭を悩ませた課題であり、今でも時々ふと分からなくなる。

禁忌で産まれ欣喜し、
矛盾を孕み無情になり、
殺人で悟って刷新し、
普通に死んで不変になる。

俺の人生なんてそんなものだった。



あぁ、もう目が開かない。
いや、見えないのか――?
出血なんて全くしていないのに、意識が遠退く。

消える。

死は、きっと無色だ。無だ。

でも怖くない。
あいつ――出夢に会えるから。
だから、怖くない。
やっと死ねるんだ。
あいつに会えるんだ逢えるんだあえるんだ。同じところにイケルんだ。


あぁ、視覚できる。知覚できる。

死が。
死に死を死は死と死から死へ死で死の、死死…、死、死死死死、死死、死死死、死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死――――……。













最後に俺は笑って逝った。





















と、




その次の瞬間に、俺は何故か産まれていた。




――――最悪。








孤独はいつも


(でも今の俺には辛かった)(いつものこと、だったはずなのに)






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