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真田くんの記憶の中では、私ではなくて、涼だった私としか会っていない。
確かに、似た顔の別人が急に出てきて、皆と仲良くしてたらそりゃびっくりするだろうし、前世の記憶があるとなったら訳がわからなくなると思う。
「私は真田くんと前世で会ったことあるよ?」
「なんと!某は失礼なことを…!」
「あ、違うの、この名前では真田くんと会ってないの。涼って名前に聞き覚えない?」
涼の名前を出すと、不思議がっていた顔がぱぁっと明るくなった。
覚えていてくれてたみたいで私は嬉しくなって、頬を緩めた。
「涼殿は某に良くしてくれたお方でござるが…」
「お久しぶりです、真田様」
「りょ、涼殿でござるか!?」
結んでいた髪を解くと、真田くんは「涼殿だ…」と口を開いていた。
「本当は涼って名前じゃなくて、小日向涼花なんだけどね。前世では戦忍だったの」
「そうだったのでござるか…」
「そうそう、俺様とあつーい夜を過ごしたりね」
「そんな妄想までしてたの…」
佐助から離れる仕草を取れば、佐助は慌てながら必死に誤解だと言ってたけど、そのまで必死になると本当に怪しくなるからやめてほしい。
そんなことは、絶対に無かったと思いたいからそこまででやめてくれ。
「思い出話に花咲かせてる所悪いけど、次降りるよー」
慶次がそう言うと皆が降りる準備をし始めた。
長いようで案外短かった電車の中、まだまだ話したいことはあるけれど、今は楽しむことだけ考えよう。
「刑部さん、手貸しますよ」
「ヒヒッ、では借りるとしよう」
どうぞ、と座っている刑部さんに手を差し出せば、ゆっくりと握ってくれた。
ゆっくりと止まる電車に少しよろめきはしたが、刑部さんの足には響いてないようだ。
電車から降りると形部さんが手を離した。いきなり消えた温もりに驚きはしたものの、まぁ、形部さんだし。と、どこかで考えてもいた。
きっと、未だ人に触れられるのをどこかで拒んでいるのだろう。だから、みっちゃん以外の人には壁が無いようで厚い壁を作ってる。私にもまだ、壁があるみたいだ。
もう形部さんは包帯で体中巻かれているわけでもない、肌が爛れているわけでもない。けれど、まだどこかで昔の事を思い出しているんだ。
「まだまだ、だなぁ」
「貴様が暗い顔をしてどうする。我らは貴様の明るい顔が見たい、そんな顔をするな」
「元就…ありがとう。楽しもうね!」
「そうだな、疲れるほど楽しむのもありぞ」
暗い過去と明るい現在
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