日常


あれから数日が経った。
月の明かりがより輝かしく映る刻、弁慶は九郎の屋敷を訪れていた。


「望美さんに稽古つけないと言ったそうですね。」

「あぁ、戦に女子供を出す訳にはいかん。」

「それは分かりますが九郎、怨霊と戦うには神子の力が必要不可欠なんです。」

「今まで通りではダメなのか。別にあいつがいなくとも」

「怨霊を確実に減らす為には彼女の力は必要不可欠です。鎌倉殿もきっとそう、」
「だが望美は…!」

「望美さん、九郎が稽古をつけてくれないとわかってから朝から晩まで…知らない間に勝手に抜け出ては夜更けにも稽古してい「なんだと?」ですから九郎」
「わかった。」

「そうですか、ではお願いします。」




全くあの馬鹿は…
今日も出歩いているのか?











「765、766、777、77はっ…た」
ガシャン コロン

「いった…」

望美は今日もこっそり京屋敷を抜け出し神泉苑で稽古をしている。
しかし連日の無茶苦茶な稽古のせいで手には数えきれない血豆が潰れていたのだった。

ザザッ
近くの草場が揺れる。

「…!」

望美は咄嗟に剣を拾い握り直し音がした方へ意識を高める。

「何をしている!」
「く、九郎さん…」

相手がわかると望美は剣を下ろした。

「こんな夜更けに一人で何をしているんだ!」
「それ、は…」

ビクッと肩をあげて緊張しているであろう望美は九郎の迫力に何も言い返せない。
九郎は望美の手は強く握られていてそこから鮮血が滴っているのを見つけた。

「もう夜も遅い、帰れ。」
「…」
「聞こえないのか。」
「…」
「帰…」
「嫌です。」
「どのみちその手では剣を握るのもやっとだろう。」
「そんなこと、ありません。」

望美の剣を握る手は震えており、更に強く握ったであろう手からは鮮血が流れている。

「…はぁ。
何でお前はそう強情なんだ…とても女人には思えん。」

「っ!九郎さんに私の何がわかるっていうんですか!」

「…知っている。」

「え?」
「来い。」
「え、ちょ、はなしてください!」
「九郎さん!」






「…」
「…」

何回も呼び掛けたが返事も返さずただ望美の手を引き歩く九郎に望美は怒りと不安が相まっていた。悶々としながら歩いていると、


「ここなら良いだろう。」
「え、ここは九郎さん家…」
「あそこで座って待ってろ。
今、手当するのを持ってくる。」

「あ、あの」

スタスタスタ
九郎は足早に家の中へと入っていってしまった。





「…っ」
「すまん、もう少しで終わる。我慢してくれ。」

待っていると薬箱を持った九郎がやってきて望美の手の平を治療しはじめた。
いたたまれなくなった望美はなるべく言葉を口にはせずにいた。

「は…い」
「これで良いだろう。
帰ったら弁慶に診てもらえ、俺は簡易的にしかやれないからな。」
「…ありがとうございます。」
「…」
「…」
「あ、あの」
「…この間は、すまなかった。」
「え?」
「お前の性格を知っていたのに、言い過ぎた。すまない。」

「い、いえ!
私もあの時はついカッとなってて九郎さんより謝らなきゃいけないのは私の方で…」

「気にするな、あれは俺が悪かった」

「そ、そんな気にしないでください!
私も悪かったんですし…っ!」

「いや、俺が悪かった!」
「いえ、私の方が!」
「俺が悪かった!」
「私が」
「俺が」
「私が」
「俺が」
「私…もう止めましょう。」
「そうだな。」
「…」
「…」
「…」
「…」

『あ、あの』

「!」
「!」

「な、なんですか!九郎さんから」
「いや、望美からで良い。俺のは大した事じゃ」
「いえ、私もここで言うべきものじゃないんで!九郎さんから!」
「…くっ、はははは!」
「く、九郎さん?」
「いや、すまない。
何だか妙な感じでな。」


懐かしいな、あの頃はよくお前と口喧嘩ばかりしていたな…


「?」
「気にしないでくれ。」
「は、はぁ。」
「…なぁ」
「はい?」
「お前は何故そうまでして剣をとる、白龍の神子というだけで守ってくれる奴はたくさんいるだろう。俺も含め八葉だってお前を、」
「大切な人を守りたい、運命を変えたいんです。」

「…それは…」
「?」
「いや何でもない。
あまり遅くなっては弁慶達も心配しているだろう、行くぞ。」
「え、あ、この近さなら大丈…」
「早く来い」
「は、はい!」






「望美。」
「はい!」
「明日の朝から稽古の相手になろう。」
「!
ありがとうございます!」
「寝坊するなよ。」
「私は大丈夫です!」
「だと良いけどな。」
「む…絶対早起きして見返してやる!」











<続>

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