逆鱗


「まぁ!
大人しくしていればよかったものを」

現れたのはやはり、と言った方が相応しい人物だった。

「政子様…」

九郎は何故ここにという顔。

「九郎、
何故出ていらっしゃったの?」

「それは…
望美と鎌倉殿の真意を確かめたいと、」

「それで脱走を?
九郎、そんなお嬢さんに関わっているから負わなくてもいい罪まで負うことになるのですよ?
武士なら武士らしく牢に戻り然るべき時を潔く待つべきではありませんか?」

「そう…ですが、
俺は信じたいんです、
鎌倉殿…兄上のことも、
望美のことも、だから」

「聞き分けの良い九郎はどこに行ったのでしょう…!
鎌倉殿が見たらきっと…いえ必ずお嘆きになりますわ。
それも全てそこのお嬢さんのせいね。」

「…だったらなんですか。」


「前々から目障りだと思っていましたの、九郎のために死んでおしまいなさい。」

政子がそう言い終わると同時に政子の姿が一変した。

「政子様?!」
「だき尼天…」

「死になさい」

木の鞭での攻撃

「くっ」
「っ!」

お互い反対の方へ避ける、

「望美!」
「九郎さん、とりあえず上に行ってみんなと合流しましょう」
「あ、あぁ!」

二人は一斉に走り出す。

「逃げれると思っていて?」

激しい攻撃、素手の二人は成す術なく階段をひたすら駆け上がる。地上に抜けたと思ったら…
そこは血の海しかなかった

「遅かったな、神子、そして九郎」

「兄上!」
「頼朝…」

九郎は久々に会えたせいか目が少し輝いている。

「あにうe」
「これは一体なんですか、」

九郎の言葉を遮り望美が頼朝の前へと出る
これとは、大量の血のこと。
しかもそれに頼朝におびただしくついている。
九郎もそれを見てしかめっつら。
「そこに鼠が隠れていてな…始末したとこだったのだ。」

「弁慶達に何をしたのですか!」
「見ての通りだ、九郎。逃げられたがな…」

「何故なんですか…兄上!」

「何故とは?謀反を企てていた奴の仲間、この鎌倉殿に欺く奴らは死んで当然ではないか、九郎?」

「…」
「九郎さん…あなただけは絶対許さない!」

「おぉ、恐い。
流石白龍の神子といったところか?
だがどうする。得物もないお前達等赤子同然。」

「…そ、そんなのやってみなくちゃわからなっ」
「望美…」
「九郎さん…?」

九郎は望美の肩に手を置き制した。
何かを覚悟したような目。
まっすぐに捕らえるのは頼朝

「望美、お前は逃げろ。」

「?!な、何言って…!嫌です。」

「聞け、望美。
俺が兄上と…いや頼朝と対峙する。その隙に逃げろ。お前一人が逃げる分の隙ぐらい素手の俺でも作れる。」

「だけど…九郎さんは?九郎さんはどうするの?!」

「………お前が生きていてくれればいいんだ。
お前が俺のことを好きだと言って付き纏ってたこの数ヶ月、本当に楽しかった。だから…お前は生きろ。元の世界に帰るんだろう?」

「い、いやです!それなら九郎さんも…」

「頼む望美」

「話は済んだか?」


ずるいよ…勝手に決めちゃうなんて。
なんで一緒に生きる運命を選んでくれないんですか…

「いくぞ、頼朝ぉぉぉお!!」

九郎がそう叫んだ瞬間。

「くっ……はぁ…」

バタッ

「…え?」
「うふふ、わたくしのこと、お忘れではなくて?」

「望美!!!!」

九郎は頼朝に背を向け倒れた望美を抱きしめる。

「くろ…うさん…」
「望美!」

「お嬢さん、もう喋らない方がいいわよ、即死程度の傷ですもの…」

「…くろ…ん、」
「望美!もう喋るな!今俺が…」
ふるふる

望美は首をゆるゆると振り手を伸ばして九郎の頬にあてる。

「大好きです…」

スッ…

九郎の頬から手が滑り落ちた。


「望美ぃぃぃぃい!」


ピカーン


「逆鱗か…よほど神子を守りたいと見える。」


「なんだ…これは…うわっ!」


















次に目を覚ました時、俺は忘れもしない望美に初めて出会った宇治上神社にいた。














<続>

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