たった一つの願い


※九郎ルートで官位を受け取って捕まって望美に腰越状を渡した辺りから捏造←


びりびりびりびり
「おい、望美!!お前一体何を!!」
びりびりびりびりびり
「見てわかりませんか?破ってるんです」
今まで文字の書かれていた紙ははらはらと望美の下に散らばる
「お前……もう紙もないんだぞ…お前がこれを渡してくれなければ俺は…俺は…」
「そんなの私は知りません」
「……望美」

何故こんなことをするのだ、望美…。お前はお前なら必ずこの書状を届けてくれると信じていたのに…俺にはもうお前しかいないのに…何故なんだ!!望美…………

九郎だって気づいていた、こんなことをして助かる見込みはないのだと。
でももしかしたら…そういう期待を込めて望美に託した…はずだったのにそれは無残にも望美の手によって跡形もなくなくなってしまった。
そしてここにきてそれを渡してから辛そうなそれでいて怒ってるような望美の雰囲気に九郎は違和感を覚えていた、いつもの望美じゃないと。だが感じただけで九郎自身、望美が何を考えてるのかどうしてこんなことするのかわからなかった。

そんな悲しそうな目で見られたってこれだけは譲ってあげれない、だってこの運命の先を私は知っているから。それは阻止しなくてはいけないから。何度やり直してもここにきてしまう、それはきっとこの運命は上書きできないもので、助けるならここしかないと、そうわかっているから…
今までの私は九郎さんに嫌われたくなくてどうしても下手から出ていた。だから最終的に九郎さんの勢いに負け文を受け取り帰ることになってしまっていた。でも、もう迷わない、たとえ嫌われても九郎さんが生きてくれているならば。

「自分の口から頼朝さんに弁解したらいいじゃないですか。」
「こんな状態で話も何もないだろう!それに謁見だって何度も求めたさ、しかし兄上はお忙しいのか会ってくださらない…」

私は信じられないのにどんなことがあっても頼朝は信じるの?

「そこまでされてるのにまだ信じるんですか、頼朝さんを。"会ってくださらない"じゃなくて"会う気がない"んですよ。いい加減気づいてください、それともまだ認めたくないんですか。」
「兄上を愚弄する気か」

なんでお前はそんなに兄上のことを嫌うのだ?俺と兄上の絆を疑っているのか?そうだとしても俺は兄上のために…

「愚弄なんてしてません、事実を述べてるだけです。」
「お前俺に恨みでもあるの…望美?」
「……」

悲しいよ、九郎さん。私は九郎さんを救いたいだけなのに、どうしてそこまで頼朝の事を信じるの…ホントは嫌われたくないよ、でも頼朝じゃなくて私のために生きてて…そのためなら嫌われたって構わない。

九郎は目を瞠った。自分の目の前の少女は明らかに喧嘩腰なのに目は何故か悲しそうで何かを言いたいのにそれを我慢してるような…そんな彼女の姿を見て九郎は押し黙ってしまった。

俺はお前が理解できない、なんでそこまでして俺に怒るのか、ただ書状を渡してくれればいいだけなのに。お前は俺に何を望んでいる?

「……意気地なし。それでよく将だの名代だの言えましたね。これじゃ九郎さんについてきた兵も私も、他の皆もがっかりです。……さようなら」
「待て望美!!!」

なんだかこのまま帰してはいけない気がする…確かに兄上の事を未だ信じてると言えばそうだ、だが今まで信頼して俺に背中を預けていた奴にここまで言わせておいて逃げられるなんてたまったもんじゃない!望美に弱い俺なんか見てほしくないんだ!

最後は涙が堪え切れなかったのか、九郎には聞こえなかった、しかし踵を返す望美に慌てて九郎は引き留めた。さっきまで冷たい態度を取っておきながら泣いているその矛盾した態度が気になった。それに今まで共に戦っていた源氏の神子が俺に対して"がっかり"と言われたのがどうしても癇に障った。

お願いです、ここから出たいと願ってください。

「……なんですか」

ピタッと足を進めるのを望美は止めた、しかし振りかえることはない。さっきと同じように冷たく言い放つ、そこに感情は無い。

「さっきからお前はなんで冷めた態度を取ったり泣いたりしているんだ。」
「そんなこと聞いてる場合じゃないと思いますよ?それに私は意気地無しな人と話す気なんてさらさらありません。私の中の九郎さんはたった今死にましたから。」
「俺はここで生きてるだろう!!」

意味がわからないという顔をしているであろう九郎に望美は更に言い放つ

「自分の命を大切にしない人なんて死んで当たり前ですから。私の知ってる九郎さんは仲間のために自分が守りたい者のために命を張る人でした、でもそこにはちゃんと夢を成し遂げるために生きる努力をする人でした。」
「………でも俺が死ぬことでその夢の一部が完成するんだ」
「だから死ぬんですか?人一人死んだだけで何かが変わるんですか、思い違いもはなはだしいですね。たかが御家人一人で世の中の仕組みの一部が完成する?笑っちゃいますね」
「……それは…」
「貴方は頼朝さんから何を聞いたんですか?何を言われたんですか?」

教えてください、私はそれを今まで知らなかった。だから簡単に書状を受け取ってしまっていた。貴方が死ななくてはいけない原因は何?

「……国のために死ね、と。俺がいると平家との戦いが終わった後に俺を支持する京と兄上とで争うことになる、と」
「そんなことで悩んでたんですか。」
「そんなこと、とは…」
「そんなことですよ、九郎さんを支持する人が増えてきたからといって何で九郎さんが死ななきゃいけないんですか。それって九郎さんが京の人をまとめられない説得できないと、自分を裏切ると…頼朝さんの考えで捉えるなら九郎さんのこと信頼も何もしてないんですよ。むしろ疑われている……違いますか」
「……」

そうだな、冷静に考えてみればそうかもしれない。俺は何も見てなかったのかもしれないな、兄上の…鎌倉殿の事を。
それにこんな状態の望美をほっとけない…いや囚われている俺が言うのもなんだが、なんだか彼女の存在がどことなく不安定だ、いつもの陽だまりの笑顔でいる望美がこんな暗い顔をしている、それは俺のせいなのか…?俺が死ぬと勝手に覚悟を決めてしまったから?

「九郎さん、まだ信じるんですか?」
「……」
「やっぱり…」

ダメですか、私はいつになったらこの人を救えるんですか。龍神の加護を得ていると言われているのに私は最愛の人も救えないんですか……

「望美、もしここから出られる方法があるのなら教えてほしい。」
「!!」
「俺は…まだ兄上の事を信じてはいる、信じたい。けど、お前の事一番に信じているんだ、誰よりも。お前の信頼を失うくらいなら…確かめたい、兄上の本当の気持ちを、だから出る方法を知っているのなら教えてくれ。」

これが俺の答え、まだ信じたい。けど望美の信頼を裏切りたくはない。できるなら生きたい、望美の隣で。それがわかったから、だから…

「……」

望美の目からは止め処ないほどの涙が流れる、ぽたぽたと地面を濡らしていく―

ありがとう、生きてくれる選択をしてくれて、ありがとう、私を信じていてくれて。
まだ、安心して泣いてる場合じゃないよ、わたし!助ける、この人を。

ガチャ、ガッターン
望美は懐から鍵を取り出し錠を解いた。

「望美?!」
「えへへ、実はさっきそこまでついてきてた兵士を気絶させてたんです」
「お前!!俺を謀ったのか!」
「そうでもしないと九郎さん、鍵を開けても意地でも出ないでしょ?」
「うっ、そ、そうだがしかし…」
「さぁ、行きますよ!上で皆待ってますから!」
「あぁ!」

二人は光に向かって階段を走り出した―








<続>

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