2話 野球観戦












その夜、メールが一通来た。
相手は山本からだった。

『件名:明日
 本文:明日の9時並盛球場な!
    お休み!』

あまりに彼らしい文章に笑いを堪えながら僕は眠りにつくのだった。





「暑い……。」


ただいま朝9時、並盛球場ゲート前
雲雀はメールを送ってきた相手を待っていた。

「おーい、ヒバリ〜」

走ってくるのはユニホーム姿の山本。

「遅い。」

「わりぃ!
ちょっとアップに時間かけすぎちまった!
ほら、ヒバリ行くのな!」

「う…わっ!」

山本に腕をとられ走らされる雲雀。

「ちょっと、どこ行くの。」

無言で走り続ける山本、周りの群れてる奴等の声が大きすぎて僕の声が聞こえてないようだ。

「ねぇ、ねぇったr」

“ボスッ”といきなり止まった山本の背中に激突した。

「ついたぜ!」

「は?」


山本と同じものを身にまとった群れがたくさんいてボールやバットが置かれている狭い空間にでた僕と山本。

「今から大会で……雲雀に近くで応援してほしくってさっ、ダメか……?」

「僕に君の応援させるなんて君も大分偉くなったものだね。」

応援云々の前にこんなに群れてる奴等の近くにいたくない。

「ダメか?雲雀がいてくれたら俺勝てそうな気がするのな!」

「僕がここにいてもメリットないでしょ。
見てみなよ君のチームメートを、すっかり怯えちゃってるじゃないか。」

「試合やればみんな雲雀の事気にしなくなるから大丈夫だって!
頼むよ、ヒバリ!」

「はぁ。」

僕の弱いところだ、彼に押されるとどうしても折れてしまう。
僕は試合終わったら覚悟しなよと山本に言いながらベンチに“ドカッ”と腰を下ろした。




数分して“うおぉぉぉぉぉぅん”と夏によく聞くサイレンの音と共に試合が始まった。




スパァァン
カキーン
うおぉぉぉぉぉお



周りの音が五月蠅い。
けど、真剣に投げてる山本を見ていつもと違う山本がカッコイイだなんて…暑いからだ
きっとこの球場の熱気にやられたんだ、そうだよ。

5回が終わるまでの間に僕も真剣に試合を見ていた
ほとんど投手戦。
なかなか両チーム点が入らない。


「はぁはぁはぁはぁはぁ。」

山本も疲れが見え始めた。

「大丈夫?」

水を一杯とタオルを持って山本に渡す。

「さんきゅな。」

スパァァン

あっという間に三者凡退。
すぐに守備の時間。
山本はまだ息を切らしてグラウンドへと向かう。

6回の表入ってすぐだった。





カーン





うおおおおおおおおおおお。








山本の球が打たれた。
スタンドを超えボールは場外へ……


「……場外ホームラン。」

山本の絶望したような顔を僕は見た。

スパァァァァアン
カーン
カコーン
スパァァァァァン
カーン

その後の山本はフォアボールや押し出し等で2点を相手に許してしまうことになった。






「……い。」


グラウンドから帰ってきた山本は終始下を向いて拳を握りしめていた。
その彼がようやく発した言葉は……


「負けるかもしれない」

『…………。』


山本の言葉にチーム全体の空気も重くなった。





   パシン




「!!!!!」

「君ふざけてるの。」

僕は山本の頬をこれ以上にないくらいに引っ叩いた。
彼は驚いてか目を見開いていた。

「ヒb」

「僕が応援してたら勝てるんでしょ?」

応援してるんだからさっさと勝ってきなよ。

『バッター早く準備しなさーい!』

「ほら、早く行きなよ。」

「ヒバリ……ありがとなっ!」

「ふん。」

笑顔でバットを持ってグランドに出た彼の背中を僕は見つめていた。





カキーン





特大のホームラン。

「よっしゃあっ!」

山本のガッツポーズ、沸き立つ観客席にベンチ。
群れるのが嫌いな僕だけど今だけは彼らと混じって山本を褒め称えた。



それからの話。
山本のホームランから崩れ始めた相手のピッチャー
バッティングに自信があるらしいこっちのチームはここぞとばかりに打ちまくった。
あっという間に開く点差。
9回まで気を持ち直した山本のピッチングによって、この日、勝利をおさめた。










「今日はヒバリのおかげで勝てたのなっ。」

帰り道、初戦勝利祝いに剛が豪勢なご飯にしてくれるらしい。
僕等は竹寿司へと向かっていた。

「ホントだよ、全く。
これで負けたなら咬み殺すどころじゃ済まなかったよ。」

ヒヤッ

「冷た!」

てくてくと山本の前を歩く僕の首筋に何か冷たいものが宛がわれた。

「これ、お詫びなのな!」

そう言って出されたのは一本のアイス。

「安すぎるよ。」

「まぁ、残りは俺の愛ってことで。」

「笑えない。」






口に広がるイチゴ味のアイス。
冷たい氷が、暑かった僕の体を冷やしてくれた。
たまにはこんな体の涼み方も良いなと思った夏休み一日目の僕であった。

































<続>



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