13話 深夜の逢瀬


夜が更け、皆が寝静まる夜、一旦部屋を出た草壁は雲雀の部屋へと戻ってきた。

「では委員長、これに着替えてください。」

草壁が懐から出したのは黒いスーツとサングラス。
更にバレない様、オールバックにするためのワックスだった。
パパッと服を脱ぎ着替えを始める雲雀。
草壁は雲雀の脱ぎ散らかしたものを拾い枕を使い偽装工作に取り掛かる。
あっという間に黒いスーツに身を包んだ雲雀、しかし目の前にはワックスという強敵が鎮座していた!

「委員長……。」

「わかったよ、使えばいいんでしょ、使えば!」

催促するような眼で訴える草壁に雲雀は嫌々ながらにワックスを手に取り頭につけオールバックに仕上げていく―――

――――――準備が済み更に夜は更ける。

「では委員長、ここから出てください。」

「……。」

無言で窓から飛び降り砂利へと着地する。
窓から草壁がそこで待っててくださいと言って窓の鍵をかけた。

ジャリ ジャリ ジャリ

「!!!!!!」

壁を曲がってきたのは草壁ではない違うスーツの男。
その男はぼーっと突っ立てる雲雀を不審に思い近づいてくる。
冷や汗が雲雀の額から一筋流れる。

「お前はそこで何をしている?」

「……お、俺は恭弥様が部屋からお出にならないように見張れと言われて…。」

「そうか、背格好が恭弥様みたいだったからな、気のせいだったようだ、すまない。」

「いえ…。」

「でわ、引き続き頼んだぞ。」

「はい。」

ジャリジャリジャリ

男は遠ざかってまた自分の歩くべき道を歩き始めた。

「ふー…。」

雲雀は溜息を一つした。
長くゆっくりと…手にじんわりと汗をかいている。

ジャリジャリジャリ

「!!!」

また足音。
戻ってきたのか…そう身構えてた時、

「委員長!!」

「はぁ…。」

「え?あの?」

「なんでもないよ。…早く連れてって。」

「はい、こちらです!」

草壁が先導して雲雀を導く。
裏口が目の前に見えた、扉をあけると…

「どうした?」

扉の向こうには男が二人立っていた。

「交代の時間です。」

「おお、そうか。ご苦労だったな。」

そう言って二人は扉の中側へ草壁達と入れ替わる。

「そこの竹藪を真っ直ぐ歩いて数メートル先に小さな川と橋があります。
そこに山本武はいるはずです、俺はここで見張ってますので早く行ってきてください。」

うん、と頷き雲雀は竹藪の中を疾走するのだった―――


―――――前へ、前へ
竹藪を入って数分走り続けた雲雀の目の前に月に照らされ反射した川と赤を基調とした立派な橋が現れた。
橋に一歩一歩近づく。橋の真ん中まで来ると…

「ヒバリ!!」

橋の反対側から山本が走ってきた。

ガシッ

「山本……。」

二人はきつく抱きしめあった。
そして、すぐ離れる。

「はは、ヒバリ、変な格好なのな。」

「うるさいよ、誰のためにこんなk」

「恭弥さん、何をしているのですか。」

『!!』

二人の間に凍りつくような声が聞こえる。

何でもうバレてるの……?いくらなんでも早すぎる…。

「なんで?って顔をしていますね。気付かなかったのですか?発信機がつけられてることに。」

「?!」

「なかなかこの子が喋ってくれなくて骨が折れました。でも根性はすごく良い、将来、きっといい秘書になりますね。」

「ぐはっ!」

『草壁(さん)!!』

雲雀の大婆様の横から現れた男は片手で草壁を地面に放る。
彼の体はぼろぼろであった。

「恭弥さん、その方と別れなさい。
わかっているのでしょう?
私に歯向かうとどうなるか…。」

「……やまm」

「嫌なのな。
オレはヒバリを愛してるし、ヒバリもオレを愛してくれてる。
何があっても離す気はないッス」

別れて、雲雀のその言葉は山本の言葉によって上書きされる。
山本は雲雀を抱き寄せはっきりと言った。

「山本…。」

「何があっても……ねぇ?
そんな言葉私の前では無意味ですよ、恭弥さん。
早く戻ってきなさい。
貴方はアメリカへ行くという大事な使命があるのですよ。」

「!!
雲雀、アメリカって……!」

「……。」

雲雀は罰の悪そうな顔をする。

「そんな方すぐに忘れられます、早くこちらへ戻ってきなさい。」

「嫌なのな!」

『!!』

雲雀も雲雀の大婆様も驚く。

「だって、ヒバリから行きたいって言葉聞いてねぇし、おばあさんがヒバリ何しようとオレはヒバリを離す気ないんだって、行こうぜヒバリ!」

「え、あ、ちょ!」

山本は雲雀を姫抱きして竹藪に向かって走り出した。

「追いなさい、あの山本って子を!!
殺してもかまいません。」

「……はい」

二人を追って黒いスーツの集団が動き出す。

「はぁはぁはぁはぁはぁ。」

竹が密集してる所にいる。
追手はどうやら撒いたようだ。
雲雀について発信機と思われるものも捨ててきた。
―二人にしばしの安息の時間が訪れた

「何やってるのかわかってるの、君!?!?」

「しー、静かにしようなヒバリ。」

「……。」

ハッとなって苦虫を噛み潰した顔になる雲雀。

「ヒバリはさ1人で溜め込み過ぎなのな。
それに留学の件だって……。」

山本が雲雀の頭をなでる。

「……だって…君はあの人のことを知らないからこんなことできるんだよ!
あの人に見つかったら…!」

「殺されでもすんのか?」






二人の間に長い沈黙が走る




「……するよ、そうやって頂上に君臨したんだから。」



「マジでかよ?!
冗談のつもりだったのにな〜。」

ははははと暢気に笑う山本。

「笑ってる場合じゃないでしょ!
早く君は剛のところに帰って!
今日のことは何もなかったことにするから!」

その態度に声を荒げる雲雀。

「嫌だ。」

「!!
なんで……どうして君は…。」

「だって帰ってもヒバリはいねぇじゃん。
それにさっきも言ったのな、オレはヒバリを愛してるって。」

「でも…」

「俺にヒバリの背中預けてくれよ…な?」

にこっといつも通り笑う山本に雲雀はフッと笑いがこみあげそうになった。
……追手が山本の後ろから見える前までは

「山本、伏せて!!」

ガキィィィン

「うわっ!」

一人の追手が銀色に光る刃物を持って山本を背中から刺そうとしたところを雲雀が間合いを詰めトンファーで弾き飛ばす。
気づけば周りは追手だらけ、二人は囲まれてしまった。

「……ッチ」

これじゃ、山本は逃がせられない。
ならこいつら全員やるしか……。

グサァッ

「がハッ!」

ドーン、ガラガサパラパラ。

「!!」

雲雀があれこれ考えてる間だった。
葉っぱが宙を舞い山本が地面へと倒れた。

「山本!!」

「ヒバ…リ。」

雲雀は山本の下へと駆け寄り山本が伸ばしている手を握ろうとする―
が、その手は握れることなく雲雀の体は宙を浮く。

「ちょっと!!降ろして!山本が!!ねぇ、聞いてるの!」

「貴方様の命令は今は聞けません。」

「山本、山本、山本ーーーーーーーーっ!!!!!!」

雲雀は懸命に手を伸ばす。

「ヒバ…リ……。」

山本の手が地面へと落ちる。
黒いスーツの男達は山本を担ぎ雲雀とは違う場所へと連れて行こうとする。

「やまも…と。」

雲雀は担がれてる男に腹を殴られ、気を失った。











――――――夏休みが終わるまで残り13日













<続>

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