10話 過去


スタスタスタ―

「(さてどうやって帰ろうか……)」

おもむろに外に出た雲雀だったが、いかんせん、ここは自分の慣れ親しんだ並盛ではないので右も左もわからない。

「(今思ったけどここ何県……?)」

雲雀はただ前を向いて歩いていく。
右も左も田んぼが続き、本当に自分が歩いているのか不安な状況に陥った時だった。
数メートル先に山があった。
ちょっとした好奇心から雲雀はほど良く人が歩ける程度に舗装された坂道を登り始めて行った―――

ガッ ガッ ガッ

――――――登ること数十分、頂上と思しき光が見え始めた。
木が生い茂っていて雲雀が歩いている道は暗くその頂上の光がとても眩しく思えるほどだった。
ここまでの道は一本道、だから雲雀は迷うことなく頂上まで登ってこれたのだった。



「ワオ…」

雲雀は驚嘆の声を上げた。
それほどこの山の頂から見下ろした景色は綺麗だったのだ。

――ガサッ

「!!!!………誰。」

雲雀は音がした草村に殺気を放ちながら隠れている人物に目を凝らす。

「おやおや、可愛らしい客人だねぇ。」

森の茂みから出てきたのは籠にミカンをたくさん積めたお婆さんだった。

「よっこらしょっと…坊ちゃんはここに何の用だい?」

お婆さんは雲雀の横へと腰を下ろす。

「…たまたま。」

雲雀は怒る気にも咬み殺す気にもならなかったのでお婆さんと同じように腰を下ろした。

「そうかい、珍しいねぇ。
この場所は私しか知らんと思っとったよ。」

「……。」

あっはっはーと笑うお婆さんを横に雲雀は呆然とするだけだった。

「そうそう、坊ちゃん名前は?この辺では見ないカオだねぇ?」

「……。」

「名前も言えないのかい?
全く近頃の若いもんh『雲雀 恭弥』
……ほー、ならきょーやちゃんね。」

「ちょっと、何その呼びかt」

「やっとまともな表情したねぇ、きょーやちゃん。」

「え…?」

「何か悩みごとかい?
今のアンタ、すごく辛そうだよ?」

「……。」

黙ってしまう雲雀にお婆さんは優しく頭を撫でる。

「(……嫌じゃない、とても懐かしい気持ちになる……。)
実は―」

     "この人に聞いてほしい"

そう思った雲雀はゆっくりと自分のことについて話し始めた。

「僕は…今も尚実績を上げ続けている18カンパニーの跡取りなんだ。」

「カンパ…なんかよくわからんけど世の中は進んでるんだねぇ。」

「…僕は13の時に跡取りになるのが嫌で家を出たんだ……すぐバレたけど。」

「……。」

真剣に話す雲雀にお婆さんも親身になって聞いてくれている。

「今の今までそうして生きてきた。
けどもう駄目なんだ…僕は!!」

     ピトッ
「?!」

お婆さんは突然人差し指で雲雀の口を押さえた。

「どうやら迎えが来たみたいだよ。
愛されてるねぇ、きょーやちゃんは。」

「え…?」

「その話はわたしみたいな老いぼれじゃなくて愛してくれてる人に話すべきなんじゃないのかい?」

「どういうこt…」

「ごめんね、きょーやちゃん。」

「(何これ…瞼が勝手に…駄目だ…)」

雲雀が瞼を閉じる前に見たのは優しそうに笑いながら白い光に包まれていったお婆さんだった。


―――――
――――
―――
――


「……んん。」

何か揺られてる気がした雲雀は目を覚ました。

「あ、ヒバリ起こした?」

「やま…もと??」

雲雀は山本におぶられてる状態である。

「いやぁ、大変だったんだぜ?
いつまで経ってもヒバリ帰ってこねぇし、親父に怒鳴られるし、近所の人に聞きまくったら立ち入り禁止の森に入ったって聞いて慌てて登ったら頂上で寝てるし…。
それにしてもヒバリすげぇのな!
あんな道がない森を服汚さずに登るなんて…」

「何言ってるの。頂上まで一本道だったじゃない。」

『??』

二人は顔を見合わせてお互いが頭に?マークを浮かべた。

「まっ、いいのな!とりあえずヒバリが無事でよかった!」

「……ふん。
それより今どこに向かってるの。」

「ん?ちょっとな〜。」

そう言って山本はミカンの木の隙間を何本も通る。
明らかに家には向かってないのがわかる。
少しすると目の前にはちょっとした丘の上、通ってきたミカン畑とは違うミカンの木と大きなリンゴの木が立っている所だった。

「よいしょっと。」

山本は雲雀を下ろして自分もその横に座った。
そして雲雀に"上"と指を指す。

「……あ。」

「綺麗だろ?」

山本も上を見上げる。
二人の眼に映ったのは―――満天の星
都会では見れない、空いっぱいを輝かせる星だった。

「ここ、オレのお気に入りなのな!」

「……。」

雲雀はまだ上を見上げている。

「ヒバリ」

「?」

山本は真剣な顔で雲雀を呼ぶ。
山本に視線を向ける雲雀。

「ヒバリは……オレのこと嫌い…か?」

「……嫌いじゃない。」

「なら、どうして何も言ってくれないのな!
つい最近のヒバリ…オレ達が出会う前みたいに笑わなくなったし、オレのこと避けるし、応接室で遅くまで仕事してるし…知ってるんだぜ?!
何もないように見せてるけどホントは何か隠し事があるって!」

「……。」

"愛してくれてる人に話すべきなんじゃないのかい?"

お婆さんの言葉が頭によぎる。

「……山本。今から言うことをちゃんと聞いて。」

「??……わかった。」


――
―――
――――
―――――

「僕はね、18カンパニーの跡取りなんだ。」

「?!あのスポーツ用品でも有名な?!」

「(そ、そうなの?それは知らなかったよ。)
う、うん。
だから僕は小さい時から海外に飛んだり、英才学を学んだり色んな事を教えられた。
好きでやってるんじゃないんだ、全部、全部、あの人達の思惑。
僕に自由はなかったんだ。
起きて、食べて、寝る…これ以外は勉強に充てられた。」

「……。」

「だから13の時、僕は家を飛び出した。
嫌で、嫌で仕方なくて、そして並盛に来た。
実家から並盛はすごく遠い。
電車でだって3時間はかかる。
僕は浅はかだったよ、今の今までバレてないと思ってた。」

「もしかして…」

「うん、戻らなくちゃいけない。
あの鳥かごに。
僕が戻らないと並盛や君が危ないから。」

「どういう意m」

さっきお婆さんが雲雀にやったように雲雀も山本の口に指を当てる。

「君のことがすごく好きだ。
けど、君が傷つくのは見たくない。
だから……別れて、僕と。」

フッとやわらかく笑う雲雀。

「ヒ…バリ?」

山本は何が起こってるか必死に理解しようとした。

「ごめん、山本。」

―ゴスッ

「ぐはっ…」

バタッ

雲雀は山本の鳩尾を殴り気絶させた。

「出てきなよ、鬼ごっこはおしまいだ。
僕を大婆様の所に連れて行きなよ。」

ガサガサガサッ
ザザザザザザザ
黒いスーツにサングラスをかけた男達が5〜6人現れた。

「流石、恭弥様でございますね。」

「ご託はいいよ。
あ、そこの彼を家まで送ってあげて。
僕に関わった可哀そうな奴だから。」

「はい。では、恭弥様こちらへ。」

「……。」


ブロロロロロン
ブォォォォォォォォオン

黒いベンツが雲雀を乗せて消えていくのだった―――




―夏休みが終わるまであと15日―











<続>

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