風で揺れるハニーブラウンの髪と桜の木を見つめる君の横顔が何処か寂しげな印象を持たせた。僕は君に誰かの面影を重ねているのかもしれないという考えに辿り着いたは、つい先日のことだ。でも、僕は誰を探しているのだろう。



僕は「永遠」の目撃者になりたい



三郎は予想していたよりも大幅に成長を遂げた。小さくて折れそうだった体は、標準にはまだ足りないけれど立派な中学生だ。小学校には通ってなかったらしいから心配していた学力も、むしろ中学校なんて行かずに高校へ飛び級した方が良いくらい問題なかった。僕の母校である中学へ行きたいとはにかんだ三郎を、耐え切れず抱き締めた僕は何も悪くないはずだ。

見慣れた校門の前に三郎が居るというのは何とも不思議な気持ちだ。人見知り激しい三郎は人の多さに驚きびくついていた。入学式、と書かれたパネルの隣に立たせてパシャリと一枚写真を撮った。先輩方(主に食満先輩)と友人達も来たがっていたが、丁重にお断りした。いくら母校と言えど卒業生、しかも人相の悪い輩が数名いる集団がぞろぞろと厳かな式に遊びに行くのは大問題だろう。それで三郎がいじめられでもしたら大変だ。


「三郎、ネクタイが曲がってるよ」


昔、僕が着ていた濃紺の制服を三郎が着ている。臙脂色のネクタイを整えてやれば嬉しそうにありがとうと笑った。いつも泣きそうな顔をしていた三郎がこんな穏やかに笑うようになるなんて、去年の僕は思ってもなかった。子供の成長は早いって言うけど本当なんだなって、ふと思った。


「雷蔵、桜だ」


舞い落ちる一片の花びらを見て時の経過を感じる。そうだね、と三郎の肩を軽く叩いてじゃあ行こうかって手を取った。式は体育館で行われるけど、まだ時間はあるので中学生の僕が気に入っていた場所へ連れて行ってあげよう。桜並木の下を通って旧校舎の裏に回れば聳え立つ大きな杉の木。三郎は目を丸くして、その大木を見詰めた。僕のお気に入りなんだ、と伝えれば三郎は何処かで見たことある気がする、と呟いた。

(―――必ず戻ってこよう、ここに)

三郎の呟いた一言はとても気になるけれど、そういえば僕も初めてこの大木を見た時は同じことを思ったな。どうしてだろう。何かこの杉には力でも有るのだろうか、なんて僕らしくもない非現実的な空想を描いたけれど、実際の所本当のことなどわからない。ただ悪い気はしないから、幸せなことであってと祈っておこう。


「――三郎、入学式行こうか」



この先に浮かぶ星の粒を

手は離さないよ。ずっと繋いでいよう。ばらばらにならないように。君が一人で泣くことがないように。それが僕のエゴだったとしても。


これからの未来なんて何の確証も持てないのに。急速に進んでいく運命の列車はもう止まらない。






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