それは4人の中に三郎が居るのが当たり前になってきた頃。
確か、勘右衛門が言いだしたんだと思う。


「そろそろ食満先輩あたりがこの状況を嗅ぎつけそうだよなぁ」

「あー、あの人ショタコン?だからなー」


皆、妙に納得してたけどさ、流石にそれはないでしょう。

僕が二桁に達してしないと予想していた三郎は、なんとまさかの12歳であることが最近発覚した。よくよく聞くと、学校にも通わせてもらってなかったことが判明し、転入の手続きを急遽中止し、今年いっぱいの特別自宅学習でなんとか最低標準まではもっていって中学校から通わせようという流れになった。あと一年もないけど大丈夫かな、という僕の心配は、予想を軽く飛び越えた三郎の飲み込みの良さの前には杞憂に過ぎなかった。特に語学系が得意で、英語にいたっては中学卒業レベルでも問題なく理解できるらしい。三郎には本当に驚かされることばかりだ。

まあ、つまり何が言いたかったかと言うと、そんな訳で学校に行っていない三郎は、外の人と接する機会が極端に少ない。おそらく僕と僕の両親とあいつら3人くらいのものだろう。あいつらが三郎のことについて面白可笑しく喋り立てるとも思えないから、いくらあの化け物集団でも、人の家庭事情まで把握は出来ないだろう。てか、そんな先輩と交流があるとかマジでないわ。そう思っていた。


『不破!お前、小学生の弟がいるらしいな!今週末のクリスマスパーティーに絶対連れてこいよ!』


勘右衛門の冗談を真実にした食満先輩からのメールには、自分の甘さを後悔するより他なかった。




君と僕とそれを取り巻くいくつかのこと




「―――っ!かわいい…!」


いつもの4人に三郎を加えた5人で食満先輩の家のドアを開けたとき、真っ先に降ってきたのはそんな言葉だった。普段のクールさなどどこへやらな先輩の反応に僕らはそろって言葉を失ったが、早く入れ、という、家主でもない立花先輩の声で、三郎を前に固まる家主を差し置き、さっさと中に入る。

客間で僕らを待っていたのは、ちょっとおかしな先輩方と、野郎10人―11人?―というメンツには些か不釣り合いなおびただしい量のお菓子の数々だった。プリン、ケーキ、クッキー、ティラミス、僕には名前も分からないようなものもある。


「三郎はどれが好きだ?三郎の為にたくさん用意したんだ」


振り向くと、食満先輩は、僕の後ろを付いてきていた筈の三郎を、ちゃっかりとその腕に抱き抱えて立っていた。頬はだらしなく緩みきっている。


「……食満先輩…きも…」


勘右衛門、出てる。心の声出てる。ってか先輩に向かってそれはないだろ。純粋に歓迎の気持ちを込めてくれただけかもしれないし。なんて僕が諫める前に、近くにおり、勘右衛門の声も聞こえていたのであろう潮江先輩が勘右衛門の肩に手をおいて静かに首を振った。


「言ってやんな。あれ丸一日かけて作ってんだ。……鼻歌歌いながら…。」


前言撤回。勘右衛門、君は正しい。

そんな僕達の複雑な気持ちをよそに、三郎はうわぁ…!と簡単を漏らして、テーブルの上を見つめている。しばらくして、これ、これがいい!と指をさしたのは、プロ顔負けのプリン。お、これかー。見る目あるな。自信作なんだ。と製作者自らから手渡された時に零れた満面の笑みに、思わずこちらも笑顔になった。



きらきらきら

これは僕の世界に灯りが灯る音
だから笑って
僕のお星さま




「ありがとう!おかしなお兄さん!」

「…………おかしの…な。」


このやり取りに、この日最大の笑いが起こるまであと数秒。



- ナノ -