例えば僕が月だとして。たくさんの逸話がある星々はきっと君のことだ。僕の周りをぐるぐる旋回して輝いて飽きることを忘れてしまうような、そんな魅力的な星を月は眩しく思う。自ら発光することのない月と常に瞬く星はいつか、手を取って微笑み合うだろう。幾年の長い時を越えて。




空っぽの僕は幸福を歌う




梅雨の季節が嘘であるかの様な満天の空が広がる午後10時過ぎ。僕はサークルの先輩と飲みに行った帰りだった。いつもは通らない道を歩いてみたくなって大通りから一本外れた細い道を通っていた時だ。月明かりでぼんやり明るくなった路地裏が目に入った。それは何処か幻想的な感じがして思わず足を進めた。一歩、二歩と奥に行くにつれて明るくなっていく気がした。突き当たりで角を曲がるとそこには小さな男の子が月を見上げて立っていた。その小さな背中は見覚えがあるような、でも何処で見たかなんて覚えていなくてただ漠然と懐かしい気分になった。


「ねぇ、」


小さめに呟いたはずの声は静まり返った狭い路地裏では、予想以上に響いた。それでも男の子は振り向かない。後ろ姿では分からないけれど泣いているのではないか心配になる。

(――泣くなよ、涙が出てなくたって、  が泣いていることくらい僕にはわかるよ。)

「ねぇ、君は――…」


薄い肩に手を置くと、ビクリと大きく震えた。恐る恐るといったように僕を見上げてくる目は明らかに怯えている。大きな瞳は水の膜が張って、月の光で揺らめいている。その顔は何処かで見たことある。何処かなんてそんな一回や二回のことではない。毎日見ているような、でもだいぶ昔に見たような、そんな気がするんだ。

(ほんと君は僕にそっくりだね。)

――ああ、そうか。この男の子は僕に似ているんだ。目も鼻も口も眉毛だって、顔のパーツは全部僕にそっくりだ。違うと言えば僕より幼いことくらい。きっと僕が男の子くらいの時と瓜二つなんだろう。
怯えている頭を一撫でして目線が同じくらいの高さまでしゃがむ。どこもかしこも細くて頼りない。この子は捨て子なのだろうか。僕よりも二回り程小さな両手を包んで視線を交わらせる。目はまだ揺れていた。


「君、行く所ないなら、僕の家に来ない?」


微かに縦に首を振った所を確認し手を繋いで、元来た道を辿って帰ろう。僕の隣で懸命に足を動かしている姿は愛らしい。僕に弟か妹がいたらこんな気持ちになるのかな。少しスピードを落として夜空を見上げると名も知らない星座がキラリと光っていた。



誰も知らない世界の片隅で

出逢えたんだから、
きっとそれは奇跡か運命






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