「お前を恨みはしないよ」


寧ろ恨まれているのは僕のほうだと思っていた。全ての重さを君に背負わせた。忍にも関わらず失われゆく命に心を痛める程、君が優しくて脆いのを知っていたのに。

また共に生きよう。
今度はきっと守るから。

そんな願いを込めて、折れそうな身体を抱きしめ続けた。


「雷蔵。私、雷蔵のもとから消えるよ。」


皮肉にも、耳元に届いたのは否定の言葉。


「今までありがとう」


そして、動揺で緩んだ僕の腕からすっと抜け出した。


「ごめんなさい」


そう言った顔は、笑っていたけど、どこか泣いているような空気を携えていた。それが今まで見たどの三郎よりもずっとずっと儚く見えて、身を翻し僕から離れようとするその腕を掴んだ。行かせない、行かせる訳にはいかない。だって、本当に消えてしまいそうで。二度と会うことすら叶わなくなってしまいそうで。かつて同じことをしたくせに、僕は三郎を手放したくない。失いたくない。卑怯。自分勝手。なんと言われても構わない。それでも、それでも僕は…


「まだ、君といたい」


ありがとう雷蔵。何百年か越しの君の言葉に私がどれだけ救われたのかなんてきっと誰にも分からない。だけど駄目なんだ。私のせいで傷つく雷蔵をもう見たくない。私はきっとまた君を傷つける。それが君の言うところの運命ってやつだとして、私はそんな未来を受け入れられない。君が残してくれた暖かさで空白を埋めるから。それだけで生きていけるから。だから…その手を、離して…。


息もつかないままに吐き出された三郎の思い。きっとこれは本心で、信じたことにはまっすぐな君は安易に自分を曲げたりはしてくれないのだろうね。それでも共に零れた涙に君に残る未練をみいだす僕はやっぱり卑怯で自分勝手なのだろうか。それでもいい。それでも僕はその妄想に縋らずにはいられないのだから。


「僕に猶予をちょうだい」


君が中学を卒業するまでの二年とちょっと。君の傷を癒したい、なんて格好いいことは言わない。僕が君を失う覚悟ができるまで。


ふいに始まり、ふいに終わった奇跡のような物語



春が来た。僕と君の四度目の春。幼く、小さかった君は、随分立派になって僕のもとから旅立った。長い長い時を越えて再度始まった僕ら二人の物語は短いまま終わってしまったけど、確かにここにあるから、寂しくないとは言えないけれど、悲しくはないんだ。

かけがえのない僕の片割れ、どうか元気で。
君と再び会えるその日を想い、僕は精一杯歌うよ。


星と月を繋ぐ歌



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