君と過ごした日常は幸せだったよ。だから僕は初めて神様ってやつを信じてみようと思う。ねぇ、君は今なにを考えてる?




流れ星に誓いのキスを




「ハチ…っ、どうしよう、三郎が帰ってこないんだ…!」

『は?今、もう深夜だぞ…!ってか雷蔵何処に居るんだよ!』

「事故って病院!そんなことより三郎!三郎探して!…もしかしたら、もう戻って来ないかもしれない」

『…何があったかは後で聞く。とりあえず冷静になれ。雷蔵は兵助達に連絡いれろ、あいつらなら協力してくれるはずだ。俺は親父に掛け合って来る』

「お願いします!」


僕の記憶が戻ったって、君がいないと意味がないじゃないか。

皆に連絡を入れれば手分けをして探してくれるらしい。有り難い。僕もハンガーに掛かっている薄手のコートを取って真っ白の病室を抜け出した。大丈夫、財布と携帯は持った。土地勘のない三郎は何処へ行ったのか皆目検討もつかない。それでも僕は、痛む足を引きずって夜の街へ向かった。

三郎と行ったことのある場所を虱潰しで探すけれど、見つからない。どうしよう。余りにも不安になって肩が震え、涙が出そうになった。その時、後ろポケットに入っていた携帯の電子音が響いた。


『雷蔵!警察犬借りれたから三郎の匂いが付いてる物持って来い!』

「うん…!ありがと、ハチ」


警視庁の役人であるハチの父親は厳しい人だ。しかも今、喧嘩中じゃなかったっけ。そんなことを考えながらハチのいる場所へ走った。

三郎、これから見つけるよ。そして話をしよう。遠い昔の話も現在の話も、そして未来のことだって。共に生きられなかった老後まで君と過ごしたい。僕らは永遠だろう。









ハチと警察犬を連れて辿り着いたのは、僕達の母校である三郎の中学校だった。此処に居るのか、とハチは門の閉まった校門を見た。あまり高くないし乗り越えたんでしょ、と僕も門に手を掛ける。ハチは犬がいるから此処で待っているらしい。難無く門を越えて敷地内に侵入することが出来た。この学校は広い。でも、何と無くだけど三郎が居る場所が分かった。僕がお気に入りだと教えた大きな杉の木。きっとそこに居る。今、行くよ。君の元へ。


杉の下には小さくなった遠い日の面影。走ったせいで上がった息を殺しながら少しずつ後ろから近づいていく。これくらいで呼吸が乱れるなんて、と過去の自分と比べると時代の差を感じた。もう夢で見たあんな争いは起こらないんだよ、三郎。僕達は生きている。だから恐いことなんて無いでしょ。


「―――、三郎…!」


びくっと肩を揺らし逃げ出そうとした三郎を引き寄せて抱きしめた。息を飲む。小さくなった僕の片割れの体は力を入れると折れてしまいそうな儚さがあった。腕の中で小さくごめんなさい、と謝罪する声。僕は、そんな言葉を聞きたいんじゃないんだ。


「久しぶりだね、三郎」

「…雷蔵」

「ずっと君に逢いたかったんだ」

「私も、逢いたかった…。でも怖かったよ」


馬鹿だな、君は。そう笑って言えばそうかも、と三郎も微笑んだ。少し強く抱きしめたら三郎もぎゅっと返してくれる。やっと揃ったね。おかえり。


「…私を恨むかい?」


震える声で投げ掛けられた問い。赦しを乞うように歪められた表情に、いつかの君の面影を見た。否。だから僕は答えよう。あの時の痛みに耐えて答えよう。


「お前を恨みはしないよ」





今再び、奇蹟をこの手に

(だってお前は僕じゃないか。僕らはいつだって二人で一人だっただろう?)

僕は君であり、私はお前であり、二人は友であった。






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