sweets


「ただいまでござるー」
定時に仕事を切り上げ、土産を手に上機嫌で家路につくと、いつもの可愛らしい『お帰り』はなかった。
「佐助?」
聴覚に意識を集中させると、くぐもったうめき声のようなものが聞こえてくる。
靴も、手にした紙袋も投げ出してトイレに駆け寄ると、そこには吐き気に苦しむ佐助がいた。

「大丈夫か!?」
「あー、お帰り、旦那。ごめんねー、出迎えらんなくて」
「それは構わないが…。いや、佐助の出迎えがほしくない訳ではなくてだな…」
「はは、分かってるよ、ありがと。優しいね、旦那は、………うっ」
「佐助!」
げほげほと激しく咳き込み、青い顔で辛そうに嘔吐く姿に、こちらまで自然と表情が曇る。

「…っくふ、旦…那、向こう行ってていいよ。見たいもんでも…ないでしょ」
「何を言っているのだ!今は己のことを気遣ってやれ!」
常に他人を気遣える。それは佐助の良いところなのだが、ただでさえ細い身体に、悪阻も酷く、ろくにご飯も口にできていない今は、痛ましさと心配が勝る。
せめて、と思い、小さな背中をさすった。
少し落ち着いたのを見計らい、顔を覗き込む。
色味が戻り、表情もやや穏やかになったのが目に留まり、ふっと頬が緩んだ。

「…ありがと、旦那。………………………痛い、痛い」
「すまぬ!」

しかし、こんなときでも格好つかないのが某なのだ。





―――





「…すまぬ」
「別にいいよ。俺様形とか気にしない質だし」
再びの謝罪は机の上のひしゃげた小ぶりな箱のこと。
先ほど放り投げた紙袋の中身だ。
「よい状態を食べて貰いたかったのだが…」
どんなものでも喜んでくれると分かってるからこそ。

「…もー、止めてよ!照れるじゃんかー」
ちゃかすような口調ではあるが、表情は正直で、本当に照れているのだろうな、と汲み取れる。


「それで、その中は何なの?」

「くりーむ大福だ」


某の返事を受けて、笑顔のままではあったが佐助の顔色が一瞬で変わったのが、空気に鈍い某にも分かった。


「旦那?」
「え、いや、佐助も甘味は好き…ではなかった、か…?」
「好きだよ。」
きっぱり言い切られる。
笑顔が崩れないのが逆に怖い。
「でも、ただでさえ食欲ないのにクリームなんて喰える訳ないでしょーが。それに空きっ腹にクリームは胸焼けします!」
「いや、あの、そういうもの、なのか…」
「そーゆーものだよ、もう!」
ちょっと呆れを滲ませながら、そう言った佐助は不恰好な箱を両手で大事そうに抱えて立ち上がった。

「佐助?」
「今日のご飯はあっさりめでいいよね?食後にこれ食べよっか」


自分を想ってくれたのであろう台詞と柔かな笑顔に某の感情など簡単に振り切った。


「佐助ー!」
「うわっ!ちょっとー、急に抱き付かないでよー」

可愛い、可愛い、可愛い!
こんなに可愛くて優しい女の子を嫁に貰えた某は本当に幸せ者だ!

ゆっくりと少しずつ大きくなっていく腹に手をやると、服ごしに伝わる温かさに胸まで温かくなる。
くすぐったいよー、と身をよじる佐助の耳元に、きっと佐助に似て優しい子になるのだろうな、と囁くと、旦那に似て、でしょ、と嬉しい言葉が返ってくる。

「まあ、元気に産まれてきてくれればそれで十分かなー」
「ああ、そうだな」

そして二人で笑みと口付けを交わした。


 

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