snug


 


今は寒い冬だというのに腹が異常に温かい。それもそうだ、家康がくっついているんだから。何が楽しいのか理解出来んが、べたべたべたべたとしつこく私の腹を撫でたり顔を近付けたりしてくる。


「家康」

「んー?なんだ三成?」


なんだじゃない。気付け阿呆。そんな上目遣いされても私は何も感じない、むしろ男からの上目遣いなんて気持ち悪い。貴様は筋肉質だから余計にだ。


「邪魔だ、退け」

「嫌だ」

「退け!」

「嫌だ!ワシはもっとこうしてたい!」


いらっ。貴様何様のつもりだ。嫌がらせか。そんなに私と腹の赤子に恨みでも有るというのか。信じられん。私が貴様に何をした。弁当に家康の嫌いな鯛の天麩羅を入れたことか。それとも家康が楽しみにしていた新商品のいちごオレを飲んでしまったことか。いや、昨日の鍋を私の勝手でシーフードにしてしまったことか。意外とやっていたな。どれだ、どれだと言うのだ家康ゥゥゥウ!


「触ってると反応返してくれるんだな!」

「なんのことだ」

「腹の赤ちゃんのことに決まってるだろ!かわいいなぁ。あと二月か。予定では四月始めだもんな」


締まりのない顔でまた私の腹を撫で回し始めた家康を殴ろうかと思ったが、止めた。どうやら恨みがあった訳でもないようだし何より億劫だ。家康の分際で私に手間をかけさせるなんて許さない。


「もういい、わかった」

「なんだ?」

「手を貸せ。トイレへ行く」


腹が大きくなってからというものトイレ間隔が近くなった気がする。困ったものだ。一度座ってしまうと立ち上がるのが案外大変で最近は何かに掴まって立つようになった。


「お姫様、お手をどうぞ」

「…なんだ貴様。気持ち悪い」

「ははっ酷いぞ!これでもワシは大真面目だ!」

「フン…ノってやらんでもない」


さっきまで私の腹を撫で回していた温かい手にそれよりは少し冷たい自分の手を重ねると優しく引っ張られ、その勢いで立ち上がることが出来た。ただ勢いが良すぎて立ち上がりと同時によろめき家康の胸に突撃した。


「だ、大丈夫か!?」

「…ああ」


いくら私が女といえどこうも簡単に受け止められるとは腹立たしい。家康のくせに!家康のくせに!


「三成は本当に危なかしいな」

「余計なお世話だ」

「…そうだな」

「それに貴様が助けてくれるから何も問題ない」


そしたらそのまま抱きしめられた。急に何だこいつは。本当によく分からん奴だ。


「三成!この世界で一番愛してるぞ!」

「えぇい!煩い!早く私をトイレに連れて行け!」


ん?ムード?そんなもの知るか。私は本当のことを言ったまでだ。






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