pledge
いつでも切れる存在でいよう。
自分自身にそう誓いをたて始まった十も年下の彼との交際。
その誓いが揺らいだことはなかったはずなのに…。
「やっちまったなぁ…」
妊娠検査薬がはっきりと示したのは陽性。
「避妊くらいしてくれよ…」
ピルを飲み忘れた自分の失態は棚に上げて呟く。
どうやって伝えようか。
いや、それ以前に伝えていいものか。
相手は眉目秀麗スタイル抜群で性格もマメ、おまけに御曹司という所謂超優良株。
何故にあえて十も上の可愛さの欠片もないおばさんを選んだのかは知らないが、まだ取り返しのつく年齢の彼に私と子供という重い枷を背負わせるには若干気が引ける。
その上、我が身が可愛くない訳ではなくとも、もっと若くて綺麗でお似合いの女性と幸せになって貰いたいなんて願える程には彼に惚れ込んでいるのも確か。
今まで仕事一筋で打ち込んできたかいあってか、シングルマザーとしてやっていけるくらいの貯えはあるなあ、なんて冷静に考えられるのは女として終わっているのだろうか。
とにもかくにも腹は括ったその数日後、私に降り注いだのは
「妊娠したって本当か!じゃあいいだろ?結婚してくれ」
それに加えて満面の笑み。
馬鹿、本当に馬鹿。
どこで聞いたのか、はたまた気付いたのかは知らないが、その道を選ぶことがあんたにどんな得をもたらすというんだ。
…あー、なんか腹立ってきた。
これは少々きつく言っても、
「何言ってんだ。」
許される気がする。
「羨ましいな二十代。後先考えずに物事喋れて。」
「What?何言ってんだ、小十郎。後先考えて結婚っつってんだよ。」
「馬鹿か、もっと自分を大事にしろ。私より相応しい相手がいることくらい分かんだろ。」
「お前が馬鹿だろ。いねえよ、四百年を覆せる女なんて。」
「何の話だ。」
「こっちの話だ。」
「とにかく、私はどうにでもなる。罪悪感なんて感じてくれんでいい。だから…」
「諦めるか馬鹿。何のためにわざわざ妊娠させたと思ってんだ。」
「…は?」
「勝手にピルなんか飲みやがって。俺がどんだけ必死だったと思ってやがる」
…なんだか、凄い事を言われている気がする。
「ほら、signしな。俺の分は記入済みだ。」
渡されたのはもう諦めていた一枚の紙切れ。
馬鹿、やっぱり馬鹿。取り返しのつかない馬鹿。
だけど、その馬鹿が吐いた甘いだけの言葉にほだされる私は――
もっと馬鹿か。
もうどうにでもなれ。
だけど一つ、高望みが許されるのなら、願わくは彼に、この子に、出来れば私にも、幸せな未来あらんことを。