「唯一の理解者って…俺達はどうなんだよ」

ゾロは明らかに怒っていた。
その後ろには「えっ」と声を漏らすナミや、悲しそうに傷付いた顔をしているサンジがいて、慌てて弁解する。


「もちろん仲間だと思ってるよ。こんな私を拾ってくれて、黒の海軍だって知っても一緒にいてくれて、皆のためなら何でも出来るくらい感謝もしてるし、大切に思ってる。でも、この人は、何ていうか…次元が違う」
「…は?」


またゾロが眉根を寄せた。怒らせたいわけじゃないのに口から出るのは言い訳ばかりだ。


「私と同じことをしてきた人で、それでも私を好きだって言ってくれた。この人の心は本物だった。この人は本当の私を好きになってくれた。その好きは絶対に本物だった。その心は信じられる」
「俺達じゃ信用ならねえっていうのか」
「違う…! そうじゃなくて…」


どう言えばいいのか、わからない。
仲間を仲間として信頼することと、異性の好意を信用出来ることはまるで違う。それをどう伝えればいいのか、うまい言葉が見付からなくて私は頭を掻きむしった。
ゾロが苛立ったように声を荒げた。


「お前がその男の頭を撃ったんだろ!」


私は押し黙ってしまった。
それを言われると、何も言い返せない。
そうだとも、私は彼を殺した。
それは罪を重ねてきた彼にさらなる罪を上塗りさせないためでもあったし、私が黒の海軍から完璧に逃げられるようにとする利己主義的な意味もあった。
殺してからこの男の大事さを痛感するなんて、思いもしなかった。
自分と同じ境遇で育ち、同じ罪を背負い、それでも好きだと言ってくれる男の存在がこれほど自分の中で大きくなるとは思ってもいなかった。
私は頭を抱えて、繰り返した。
「わかってる。わかってる」
私に彼を愛する資格はない。
あまりにも傲慢な理由で彼を手放してしまった。差し伸べてくれた腕を切り落とす真似をした当然の報いだった。

「僕を撃ったの…?」

彼が問う。
私はまたはっと振り仰いで、繰り返し謝った。

「ごめん、ごめんなさい。それ以外にやり方を知らなかったの、それしか教えてもらって来なかったから、それしか…!」
「でも写真を持ち歩いてくれてたってことは、ずっと僕を大切に思ってくれていたんでしょう?」

言葉にする勇気はなかった。
けれど、苦労して頷いた。


「なら、もういいよ。気にしない。何せ僕は何も覚えていないから。これから君がいてくれればいい」


そう言いながら抱きすくめてくれたこの人の温度に涙しながら、この人の名前すら知らない事実に悲しくなる。
私達は互いのことを何も知らない。
知らない代わりに求める心が強すぎる。
「ありがとう」と言えたけれど、小さすぎて掠れていた。


「仲間にしちまえばいいじゃん」


そこへルフィがにかにかと笑いながら割って入った。
見れば両手で後頭部を支えながら手摺に座っている。


「次の島まででもいいじゃんか。海賊のままでいいって言ったら俺達と海賊を続ければいいし、やっぱり教会がいいってなったら、送りに来てやろうぜ」
「はあ? お前、何をお人好しなこと言ってんだよ。アラシはどうするんだよ!」
「そいつと降りたいっていうならアラシの好きにすればいいさ。アラシの自由だ。俺はアラシに何かを我慢させるのは嫌だ」


それはルフィの本心のように聞こえた。
一緒に航海を続けるチャンスをくれながらも、降りる選択肢を用意してくれたのはキャプテンらしい朗らかでお人好しで優しい一面だった。

私は窺うように男を見た。


「それでもいい?」
「ああ、いいよ。アラシっていうんだね。うん、やっぱり覚えがある。僕はカイトって呼ばれてるんだ」


カイト。口の中で鸚鵡返しした。


「少しの旅行だと思えばいいんだよね。じゃあ、教会の人達に挨拶に行ってくる」
「私も行くよ」


そして私達は手を繋いだまま、教会に向かった。
ゾロの憤怒が込められた視線と、サンジの不安そうな視線が痛いほど突き刺さったけれど気付かないふりをした。

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