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ひたすら歩く秋山さんに必死に付いていく。
足の長い秋山さんと私とでは、全然歩く速さが違う。
ほとんど走るようにして、追っていた。
繋がれたままの手がいつもより力強くて戸惑ってしまう。
本当はお昼過ぎに待ち合わせていたのに、6時間も早く外出させてしまったからか。
もしくは電話をしたときまだ眠っていて、起こしてしまったのかもしれない。
どうしていつも迷惑ばかり掛けてしまうんだろう。
後悔して、唇を噛んだところで、秋山さんは立ち止まって、私に向き直った。
睨むような、諌めるようなその瞳に、萎縮してしまう。
「あの、本当にごめんなさい」
頭を下げて謝った。
頭上から声が降ってきた。
「…何が」
声色は低く、やっぱり怒っているらしかった。
おそるおそる顔を上げると、強い瞳に負けて俯いてしまった。
「時間、間違えちゃいました…。急がせて、本当にごめんなさい。まだ寝てたんですか?」
「本当にそんなことが理由で、こんなに不機嫌になってると思う?」
「え」
秋山さんを見上げると、呆れるように嘆息ついていた。
必死に理由を探す。
「あ、探させたからですか。私が待ち合わせ場所にいないから、探すはめになってしまったから、だから――」
「違う」
言葉を遮られた。
もうわからなくて、救いを求めるように秋山さんを見つめると、秋山さんはもう一度深く息を吐いた。
そっぽを向いて、小さく何かを言った。
「えっと、何ですか? すいません聞こえなくて」
秋山さんは唇を一舐めして、指だけで小さく手招きをする。
素直に従って、耳を傾けた。
すると耳に吐息が掛かって――
「嫉妬」
そう囁かれた。
びっくりして顔を向けると、触れるだけのキスをされてまた驚く。
言葉にも行為にもわたついて、言葉にならない声を発していた。
「他の男に触るのも触られるのも禁止」
口角をあげた秋山さんは勝ち誇ったような顔をしていた。
きっと赤くなっている私を笑っているに違いない。
手の甲で頬に触れて、熱を冷ましながら何を言えばいいのか考えるのだけれど、思い付かない。
結局、秋山さん、と彼の名前を咎めるように呼ぶことしか出来なかった。
「無防備すぎるんだよ、君は」
「無防備だなんて、そんなこと」
「次、他の男と関わったら罰ゲームね」
「何させるつもりですか」
「それは気分次第。ほら、行くよ。何せまだ6時間もあるからな」
「はい!」
何だかんだで、大好きな秋山さんの後を追うことしかできない。
けれど、そんな自分はちっとも嫌いじゃない。
囚われた詐欺師
(束縛なんて、自分が一番驚いてる)
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