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うーん、よくわからないな。
そう呟くと、カウンターの向こうで俺の作るハーブティーを待っていたアラシちゃんから、のんびりとした声が返ってきた。
「なにがー?」
情けないと思いながらも、打ち明ける。
「鼻が利かなくて味がわからないんだ」
我ながら風邪の病み上がりとはいえ、シェフらしからぬ言動ではある。
アラシちゃんがカウンターを回って調理場へやってくるのが音でわかった。
ティーポットから薄い茶色をしたハーブティーをカップに注ぎ入れ、くいっと飲み干す。
「大丈夫。いつもの味だよ。このハーブティーは私しか飲まないんだから、すぐに言ってくれてよかったのに」
それじゃあプライドが、とまでは言えなかった。さすがにね。
よかった。と、言うとアラシちゃんが笑った。
いつもなら、こんなに近くにいれば彼女の香りがするはずなのに今は何もない。
何だか損した気分になって、香りを体内に入れたくて、いつの間にかキスをしてた。
ハーブティーの味も彼女の味も、どちらの香りもわからなかった。
けれど、とろけそうなほど柔らかくて、熱かった。
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